西東京ハウス

nishitokyo house

text by Kanako Satoh
photo by Akira Nakamura

西東京ハウス

選んだのは「買う」のではなく「つくる」方法
“家族4人が住める最低限の要素”でつくった家

「西東京ハウス」が建つのは、短冊状に区切られた敷地に間口の揃った家々が並ぶ、よくある住宅地。敷地は約17.5坪、建築面積は約10.5坪の木造2階建てで、ロフトを含めた居住スペースの面積は約22坪の木造2階建て。今の時世に東京都下で建てる新築一戸建てとしては、標準的なボリュームの住宅といえるだろう。

1階にカーポートと玄関という構成、斜線制限などの法規から導かれた形状とボリュームは隣家と変わりないが、スチールで造作したバルコニーの手摺や、軒下いっぱいまで高さがある掃き出し窓、水平に伸びる庇や横貼りしたサイディングが、間口2間という狭さを感じさせない、おおらかな雰囲気をファサードに醸し出している。

straight design lab | nishitokyo house

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この家に暮らすのは、市川圭さんと亜矢子さんご夫妻、長男と長女の4人家族だ。市川さんご夫妻が家を建てようと思ったきっかけは、10年以上暮らしてきた賃貸アパートが古くなり、ストレスを感じるようになっていたこと。そのまま賃貸に暮らし続けるよりも、ストレスを感じない家に暮らしたいと思い、住宅ローンを組む上での年齢的なタイミングも考え、マイホーム購入を決意。建売住宅やハウスメーカーのモデルハウスを見学し始めたところ、亜矢子さんのご友人からおすすめされたのが、ストレートデザインラボラトリーだったそうだ。

「ちょうど、ストレートデザインラボラトリーが設計した『HOMEBSE』の内覧会をやっていたので、行ってみたんです。家のテイストが好みだったこともですが、設計士の東端さんがとても話しやすい方だったことも、設計をお願いしようと思った大きな理由でした。“丸っぽい車よりも、四角い車が好きなんです”と伝えたことを覚えています。自分が好きなものをわかってくれそうだと感じたんです」(亜矢子さん)

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「設計に望んだのは、広くて開放感がある明るいLDK、壁付けのキッチン、土間を取り入れたいということ。個室は小さくていい、なくてもいいぐらい、と伝えました。予算がたくさんあるわけではなかったし、“家族4人が住める最低限の要素があればいい”と思っていました」(亜矢子さん)

2階はワンフロアが丸々LDK。トップライトと東側のバルコニーに面した掃き出し窓、西側のキッチンの窓、南側の階段ホールに面した窓から光が注ぎ、北側の白壁に反射してフロア全体を明るく照らしている。「前の家でもカーテンは付けず、窓や戸はほとんど開けっ放しで暮らしていました」と亜矢子さん。南側には隣家の窓が面していたが、窓が小さくカーテンも付けていたため、「自然の光と風をたくさん取り込みたい」という希望を優先した。

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キッチンは、「料理に集中したい」という亜矢子さんの希望から、対面型ではなく壁付け型に。正面に設けた窓は隣家と隣家の合間から空が見え、明るく気持ちがいい。キッチン本体は、ステンレスの天板にシンクとコンロを付けただけの仕様で、フルオープンにした下部は自由に使えるようになっている。キッチンの奥にはリビングダイニングから死角になるように壁を作り、家電などを置くカウンターとオープンな食器棚を造作した。

「収納をほとんど作らなかったのは建築費を抑える目的もありましたが、前の家が狭かったこともあってあまり物を持っていなくて、必要性を感じなかったんです。でも、キッチンの奥の収納は作ってもらってすごく良かった。LDKで散らかりがちな要素をぱっとここに隠したり、とにかく何でもここに詰め込んでしまえる(笑)。住む人の生活や気持ちを汲んだ設計に感動しました」(亜矢子さん)

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1階は、玄関の下足スペースだけでなく、通路も洗面脱衣所も寝室も、すべてモルタル仕上げの土間床にした。土間床に置かれたベンチや壁には草花が飾られ、ちょっとしたギャラリーのような場所になっている。外と中の境界が曖昧な土間床は、蹴込のない階段と相まって、玄関ホールを広く感じさせる効果も生んでいる。

「うちの家族は家の中では常に裸足。土間床を踏んだ時の、冷たくて固い足触りが気持ちいいんです。玄関はお気に入りの場所ですね。階段に座って、玄関越しに外を眺めるのが好きです。玄関アプローチの植栽は、ミモザの木とアジサイとオオデマリの苗をホームセンターで買ってきて、自分で植えました」(亜矢子さん)

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寝室、トイレ、洗面脱衣室、浴室といった生活機能は1階に集約。寝室はシングルベット2つと間口1間ちょっとのクローゼットが収まる最低限のサイズだ。窓にはカーテン代わりの目隠しとして、磨りガラス調のシートを貼っている。洗面は、キッチンと同じ白い100角タイルを馬貼りにして、実験用流しとクラシカルなデザインの水栓をコーディネート。国立の古道具店「LET EM IN」で売られていたというミラーが、その設えを引き立てている。

「個室はなくてもいいくらいと伝えましたが、とはいえ子供が2人いるので、2階のロフトを子供部屋として使える空間にしてもらいました。それぞれシングルベッドがギリギリで置ける3帖ほどのサイズですが、子供たちはリビングダイニングで過ごすことがほとんどで、小ささはあまり気にしていないみたいです」(亜矢子さん)

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2つの子供部屋をつなぐ部分には、子供たちの勉強スペースとしてカウンターデスクを造作。現在は、音楽が趣味である圭さんのDJセットやCD、レコードが置かれている。圭さんは、将来子供たちが独立したら、このロフトを自分の趣味空間にすることを考えて楽しんでいるそうだ。

「リビングのピアノは最初から置く予定だったものではなくて、ここに住み始めてから、僕の思いつきで引き取ってきたんです。“ピアノがある生活っていいかも”と思って。この家を建てたら、いろんな暮らし方の想像ができるようになりました」(圭さん)

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“家族4人が住むための最低限の要素があればいい”という、慎ましい要望から始まった市川さん一家の家づくり。たしかに寝室も子供部屋もコンパクトで、外装も内装も簡素な要素で構成されているが、それは構造や断熱など、長く快適に暮らすための性能の確保に重点を置いた結果。壁や天井の仕上げはラワン合板の塗装仕上げで、木の質感と表情を感じられる。幅木と廻縁のない床と天井の入隅の納まりや、壁の端部や窓枠に設えた無垢材、造作したラワン合板のドア、金物や照明器具の色味や素材感の統一、LDKの床は無垢のオークフローリングにするなど、細かな操作の積み重ねで、質量を感じる空間をつくり出した。

「設計事務所と家を建てるという方法は、家や暮らしへのこだわりが強い人が選ぶ方法で、お金ももっと掛かると思っていたんですよね。でも実際にやってみたら、建売住宅を買うのと変わらない金額で、内容は全然違う家を建てることができました」(圭さん)

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TRUCK FURNITUREのソファとダイニングテーブルは、亜矢子さんが“いつか欲しい”と思っていたもの。受注生産品で家の完成より先にオーダーする必要があったため、設計の際は、ソファとダイニングテーブルのサイズに合わせて柱の位置などを検討した。800ミリ×1800ミリある大きなダイニングテーブルは子供たちの勉強スペースにもなり、休日は遊びに来た友人家族と大勢で食事を囲むこともある。亜矢子さんはこのソファに体を預けながらLDKを眺めるのが好きだと話し、圭さんはソファで寝てしまったときに、トップライトから落ちる光で目覚めるのが気持ちいいと話す。

「妻は、TRUCK FURNITUREのような家具が好きかと思えば、エキゾチックな雑貨も好きだし、実はキャラクターものも好きだったりするので、家づくりをする前は、“どんなテイストの家なら合うんだろう”と思っていたんです。この家は、そんな妻の多趣味も、僕の思いつきも受け入れてくれる。“買う家”ではなくて、ストレートデザインラボラトリーと家をつくることを選んで、本当に良かったと感じています」(圭さん)

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