国立ハウス 3

kunitachi house 3

text by Kiyo Sato

photo by Takeru Koroda

国立ハウス 3

RC造の趣を活かす
新築からリノベーションへ

国立駅からほど近い閑静な住宅街。紅葉や百日紅が彩る庭の奥に、赤いポストが目を引く真っ白な建物が立っている。RC造の2階建てをリノベーションしたこの家に暮らすのは、ご夫妻とお子さん二人のTさん一家。家づくりを検討し始めた当初は「リノベーションという選択肢がまったくなかった」とご夫妻は振り返る。 

「分譲マンションに暮らしていたのですが、二人の子どもたちが大きくなってきて、ゆくゆくは個室も必要になるだろうと。広さや間取りを考えた結果、戸建て住宅を新築するつもりで、馴染みのある国立付近で土地を探すことにしたんです」(Tさん)

straight design lab | kunitachi house 3

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なかなか希望通りの土地が見つからない中、不動産屋に紹介されたのが南側の道路に面して庭のある敷地面積120㎡超えの土地。そこには1977年竣工の鉄筋コンクリート造(以下RC造)の住宅が立っていた。

「もともとピカピカした新しさより、古くて味わいのあるものが好き。内見してみたら、リノベーションの可能性もあるかもしれないと思って。でも私自身、建築関係の仕事に携わっていることもあり、古い建物は解体してみないと分からない部分が多いことも知っていました。RC造とはいえ耐震的に大丈夫なのか漠然とした不安もありましたし、何よりリノベーションをしたところで自分の好きなテイストに仕上がるのかどうか確信が持てなかったです」(Tさん)

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工務店など数社に相談していたが、当然のように建て替えることを前提に話が進んでいたという。思うようにいかない家づくりに悩んでいた矢先に、ストレートデザインラボラトリーが設計した家に住む知人から東端さんを紹介された。テイストも好みで早速コンタクトをとったという。

「初めて相談に行った時に取り壊すのではなく、“せっかくなら活かしましょう!”と言ってもらえて。できればそうしたい思いがあったので東端さんの方から提案されたことがうれしかったし、頼もしかったですね。老朽化が懸念されたので一旦フルスケルトンにして躯体の状況を把握した上でプランを考え、もし広さや間取りに不満が残るようだったら再度建て替えを検討する方向で進めることになりました」(Tさん)

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以前の間取りは1階にリビング、ダイニングキッチン、水まわりがあり、2階は四つの個室という構成。建物は壁で構造を支える「壁式構造」で、柱や梁で支えるラーメン構造と比べて間取りの変更に制約があったが、特に問題はなかったという。

「家族それぞれの個室も確保できるし、ほぼイメージ通りでした。家事動線を考慮してベランダのある2階に水まわりを移設した以外に大きな変更はなく、あとは大きな掃き出し窓がいくつもあったので家具を置くことも考えて一部を壁に変更してもらいました」(Tさん)

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唯一懸念されたのがリビングとダイニングキッチンを区切る壁。完全に2部屋に分かれて閉塞感があり、庭への眺望も遮られる。「オープンなLDK」を望む夫妻のために、東端さんは構造家に相談しながら解決策を検討した。

「壁を壊してみると実は大半が空洞で。一部は構造上残さないといけなかったのですが、新しく鉄骨梁で補強することで当初から希望していた一体感のある空間を実現できました。ダイニングで庭の緑を眺めながら仕事もできて、とても気持ちがいいです」(Tさん)

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そのほかの間取りは既存を踏襲しながらも、より快適に暮らせる工夫が施されている。玄関は自転車も置けるゆったりしたスペースがあり、その横に家族4人分のシューズクローゼットを併設。廊下沿いには洗面所を上に移動したことで小さな手洗いスペースを設け、その奥にはファミリークローゼット、パントリーといった収納スペースをまとめた。玄関から手洗い、収納までが動線上につながり、帰宅時や外出時も身支度がスムーズなのだそう。

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2階は当初の計画通り、家族それぞれの個室と水まわりを配置。廊下の余白を活かして小さなライブラリーコーナーが設けられ、引っ越し後にDIYで取り付けた本棚やアート、スツールが置かれて楽しげなスペースになっている。子ども部屋は将来的に2部屋に分けられる仕様で、今はレースのカーテンを仕切りにしながら共有中。天板と脚を組み合わせられるBISLEYのデスクとベッドがシンメトリーに並び、すっきりとした印象だ。

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「インテリアに関しては東端さんに信頼を寄せていたのでほぼお任せで。イメージとしてお伝えしたのは、私が好きな東京・白金にあるアパレルショップの“YAEKA HOME STORE”。既存の痕跡を残しながらも、シンプルでベーシックな空間を提案してもらいました」(Tさん)

上下階共に床はオーク、トイレ・洗面脱衣室・ウォークインクローゼットは清掃性を考慮してリノリウムにし、壁と天井は白く塗装、扉はラワン材を選んだ。キッチンは東端さんの自邸を見て惹かれたというステンレスの天板とラワン材の組み合わせ。壁の一部をタイルにして使いやすい高さに既製品のステンレスバーやSAT.PRODUCTSのラックを設置した。“白と木”をベースに素材の数を絞ることでコストダウンを図りつつ、ところどころ現しにしたコンクリートの壁や、玄関の収納扉を移設したクローゼットなど経年変化による味わいが足され、「ずっと飽きずに過ごせる空間」になった。

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そんな住まいの顔は庭に面したライトグレーのスチールサッシ。キッチンと同じくcampを主宰する大原温さんがデザインしたもので、スチール特有の質感やシャープなフォルムが印象的だ。内側には特注の木製網戸も設置されており、開け放てば心地良い風が吹き抜ける。

「東端さんの自邸のスチールサッシも計画当初から絶対に取り入れたいと決めていました。コストの関係で最終的に一カ所だけになってしまったけど、なんとか死守できて良かったです(笑)。色もえんじにするかどうか悩んだ部分で、最終的にインテリアとなじむライトグレーにして正解でした」(Tさん)

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引っ越しを機にソファを手放すなど、この家に合う家具を見直したというTさん。手元に残ったのは、Borge Mogensenの折り畳みテーブルとシェーカーチェア、Ilmari Tapiovaaraのピルッカチェアといった長年大切に使っている北欧のヴィンテージ家具が中心。温かみのある木の家具に、東端さんがTさん宅に合わせて選んだドイツのLINDNERやRademacherのブラケットライト、Louis Poulsenのペンダントといった工業的なデザインのヴィンテージ照明がアクセントになっている。ほんのりと温かみのある光に照らされた夜の空間も格別だ。

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今回、50年近く経った戸建て住宅のリノベーションということもあり、家全体の性能の向上に加え、メンテナンスは必須だったという。ほぼ皆無だった断熱性能は新たにウレタンフォームを吹き付け、断熱気密性と防犯性の高いサッシに変更。LDK全面に床暖房も完備した。さらに外壁材はひび割れを補修した上で、新しく上から白く塗装。屋根はウレタン塗膜で防水性を高め、安全性を考慮してベランダ周りの手すりもスチールで新設した。目に見えない部分にも手を加えた分、必然的にコストもかかったが「これから長く快適に住んでいくためには必要なことだった」と夫妻は振り返る。

古い家をリノベーションして住み継ぐ。それは新築を予定していたTさん夫妻にとって思いもよらない結果になったかもしれない。一つの運命的な出合いがかけがえのない住まいへと生まれ変わり、これからも大切な家族の時間を紡いでいく。