原宿フラット 2

harajuku flat 2

text by Kanako Satoh

photo by Natsuki Hamamura

原宿フラット 2

ビンテージマンションを住み継ぐ
物件が持つ物語を紡ぐリノベーション

築50年越えのマンションの一室を彩るのは、世界各国から集められた家具や雑貨たち。モロッコで手に入れたというカラフルなラグに、ボーエ・モーエンセンのデイベッドやフランス製の古いテーブル、近所のガレージセールで出会ったキャビネットにチェア。キッチンのラックにはヨーロッパやアジア、日本の各地で買ったという色とりどりの食器が並べられ、棚には旅の思い出の雑貨がずらり。天井や壁を彩るのは、個性的なフォルムやビンテージな佇まいの照明。そして、そこかしこに飾られたグリーンたち。さまざまな地域と時代がミックスしたインテリアが、時を忘れるようなリラックス感を生んでいる。

straight design lab | harajuku flat 2

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「掘り出し物を探すのが好きなんです。物が綺麗に並べられたお店よりも、ガレージセールとか蚤の市のように物が溢れかえったところから、お気に入りを見つけ出すのが楽しい。いつでも行けるお店で見つけた物だったら悩んでしまうと思うのですが、海外で出会う物たちはいつも一期一会。“今、買わなきゃ!”と勢いで買ってしまいます(笑)」

そう話すのはフォトグラファーの浜村菜月さん。夫と愛猫のまきゃべりくん・どきどきちゃんと暮らす住まいは、ル・コルビジェの流れを汲む有名建築家の設計のもと建てられた、いわゆるビンテージマンション。アーティスティックな外観や共用部、大きな窓や広いバルコニー、住戸内のディテールも個性的で、デザイナーズ物件の名作として知られる建物だ。浜村さんがこのマンションの部屋をリノベーションするのは実は二回目。ストレートデザインラボラトリーとリノベーションした『原宿フラット』から、マンション内で住み替えをした。

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「ある日、マンション内の住人に、『この部屋を買いませんか?』というチラシが配られたんです。前オーナーはこのマンションに他にも部屋を持っていて、その部屋を不動産屋に売った時、よくある普通のマンションのような内装にリフォームされて、再販されたその部屋を買った人もすぐに売却してしまったそうなんです。そんなことがあって、もっとこのマンションに愛着を持ってくれる人に住んで欲しいと、今回はマンション内の住人に声をかけたそうです。このマンションは、ここを好きな住人ばかり。古いので不便もあるけれど、修繕を重ねながら暮らしている。そうやって長く愛され続けていることが、この建物の価値だと感じています」

歴代の住人たちが大切にしてきたものを尊重する。そのスタンスは、新居のリノベーションにも反映された。リノベ前の部屋は、竣工当時の建具やパーツを残しつつ、DIY好きの前オーナーによる改装が加えられており、「味のある空間だった」と浜村さん。3LDKだった間取りを1LDK+ワークスペースに大きく変える以外は、“活かせるものは活かす”スタンスでリノベーションを行っていった。

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「この部屋はもともとアイランドキッチンになっていて、それが良かったので真似をして作り直しました。キッチンを支える脚は既存のキッチンについていたものを再利用しています。背面側はカウンター収納があったのを撤去して、真ん中にカウンター台を作り、左右は隠せる収納にしました。ベンジャミンムーアの塗料でブルーに塗った壁に取り付けたTse&Tse associeesのインディアンキッチンラックは、『原宿フラット』から持ってきたもの。もうひとつ買い足してコレクション皿の収納量をアップさせました」

赤みがかかったフローリングは、前住人が自ら買い付けして張ったという無垢の南洋材をそのまま利用した。サンダーで研磨してフローリングに付いていた傷をなくし、オイルを塗り直している。床は面積が広い分、すべてを新しく仕上げ直した場合は結構なコストがかかるが、メンテナンスを重ねれば長く使うことができる無垢材だったからこそできたコストダウンだった。

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「リビングの一角には、私のワークスペースもつくりました。このワークスペースは、デスクと壁が一体になったブースになっていて、背面側の本棚とつなぐパーツで倒れないように固定されています。ワークスペースの配置をなかなか決められなかったので、位置を変えられるようにしてもらいました。デスクにいる時、後ろ側を夫が行き来すると気になるので、背中側が棚になるようにレイアウトしています。現在の位置が気に入っているので今のところ動かす予定はありませんが、動かせるとわかっているので、将来のレイアウト変更を考えるのも楽しいですね」

雑誌や書籍、旅先で集めたコレクションが飾られた棚の前は、夫のリモートワークスペース。造作した棚の一部にはフローリングパネルが差し込まれ、愛猫たちのキャットステップになっている。このスペースの隣は前住人によってガラス屋根が架けられたテラスがあり、浜村さんご夫妻はそこで友人とお酒を飲んだり、ホットプレートで焼き肉をするなど、アウトドアリビングとして楽しんでいるという。

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「バスルームとサニタリーももともとの空間を活かしていて、バスタブは既存のもの。壁と床はカラフルなタイル張りだったのを、モールテックスというモルタル調の左官材を上から塗り重ねています。特徴的な形をしたドアやドアハンドルなど、竣工当時からあるパーツも残してもらいました。寝室は間仕切り壁をつくり直したのですが、もともとのドアを再利用するだけでなく、大工さんがドア枠の造りも再現してくれました」

古い物件で、さらに幾度も改装が重ねられてきていたため、バスルームとクローゼットの照明の電気配線がつながっているなど、工事を進めていく中で予想外の事態に遭遇することもあったという。既存を活かすリノベーションは、壊す箇所・壊さない箇所、捨てるもの・捨てないものを細かく判断して、解体や施工の際はそれに留意しなければならない。一旦すべての内装や間仕切り壁を撤去して、スケルトン状態から空間をつくり直していくほうがスムーズな場合もあるが、「もともとを活かしたリノベーションのほうが、歴代の住人に愛されてきたこのマンションらしい」という想いのもと、空間づくりを進めていった。

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「照明にはこだわりました。スイッチやブラケットライトはベルギーの『zangra』というインテリア雑貨のお店から個人輸入したもの。シンクの上とダイニングテーブルのペンダントライトは京都の『ARUSE』で、リビングのものは目黒の『Pocket Park』で見つけました。ダイニングテーブルは、なかなかこれだ!と思えるものが見つからなくて、SAT.PRODUCTSに製作してもらったオリジナル。天板はリクエストしたリノリウム張りで、スチールの脚は玄関ドアと同じマスタード色にしてもらいました。この部屋ができてからから一年ぐらいかかって、今のインテリアに落ち着きました」

そうして完成した空間は、浜村さんが選び抜いた照明や家具、旅先から集めてきた雑貨で彩られることで、すっかり“浜村さん色”に染まっている。特に照明は、ベースライトとして天井に取り付けたボール電球のほかは、場所ごとに異なるデザインのペンダントライトやブラケットライト、電球を使い分けて、広いLDKの中にコーナーをつくり出している。

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「せっかく広い家に住み替えるので、細かく仕切るよりも広々とした空間にしたかったんです。仕事柄、ハウススタジオの広さに慣れているということもあるかもしれないけど、やっぱり広いのは気持ちがいい。物が見えている方が好きなんですよね。旅先で見つけたものは別ですが(笑)、出会った時に“あそこに置けるかも”というイメージがぱっと思い浮かぶものだけ買うように心がけています。あと、家具を置く時は、床に間を開けてコーナーごとにまとめることも意識しています」

窓のデザインや端々に残されたディテールから感じられる、築50年を経てもなお新鮮さを覚えるデザイナーズ空間に、異国情緒溢れる浜村邸のインテリアはよく似合っている。建物本来の個性と、前住人が残したものと、それを下地にして浜村さんがつくり上げたもの。物語を積み重ねて出来上がった、この物件だからこその空間。こんな家づくりができることも、リノベーションの醍醐味だろう。

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