国立ハウス 2
kunitachi house 2
House
text by Kanako Satoh
photo by Toru Kometani
このサイズが家族4人にちょうどいい。
延床面積22坪の「持て余さない家」
今の時代のファミリー世帯に「ちょうどいい家」とは、どのぐらいのサイズだろうか。個室にこもりっきりにならないようにという風潮や、家族それぞれがスマホやタブレットでパーソナルな時間を楽しめるようになったこともあり、個室は必ずしも広さが求められる場ではなくなってきている。また、家づくりをした先人たちの「子どもが独立して部屋が余っている」「家が広すぎて掃除や管理がしきれない」という声も聞かれるようになった。『国立ハウス2』は、そんな問いへのヒントを提示してくれる事例だ。
「広くて大きな家に魅力を感じなかったんです。夫の仕事の都合でアメリカに住んでいた時の家は、120㎡くらいありました。子どもたちはのびのびできていいけれど、すべてが遠い。お風呂もトイレも遠くて、キッチンも広すぎる。家具を置いても、ガランとしていていまいち決まらない。掃除をするのも大変でした。期間限定で住むなら広い家もいいけれど、だんだん歳をとっていくし、子どもたちが巣立ったあとのことを考えても、広すぎない家がいいと思ったんです」
切妻屋根が乗ったグレーの四角い箱に、バルコニーが差し込まれた外観。玄関アプローチは施主手配で植樹された西海岸テイストの植物が彩り、奥へ進むとスチールで造作されたインダストリーな玄関ドアが出迎える。この家に暮らすのは、40代のMさんご夫妻と、小学三年生の長女と小学一年生の長男の4人家族だ。国立の静かな住宅街に建てたマイホームの延床面積は約75㎡で、坪数に換算すると約22坪。首都圏の新築分譲一戸建ての平均延床面積99㎡、坪数でいうと約30坪(※)と比べるとずいぶんコンパクトだが、「私たちには、このぐらいがちょうどよかった」とMさんは話す。
「ストレートデザインラボラトリーのホームページに載っている『西東京ハウス』の『“家族4人が住める最低限の要素”でつくった家』という記事を読んで共感して、ストレートデザインラボラトリーの東端さんに、私たちもそういう家が欲しいんです!とお話ししました。このプランを提案された時は、過剰なスペースがなくて私たちにぴったりだと思いました。当初の提案ではパントリーとワークスペースの間が仕切られていたのをつなげてもらい、ワークスペースをガラス入りの木製パーティションで仕切る形にしてもらいました」
1階と2階はそれぞれ約37㎡で、2階はダイニングキッチンとリビング、ワークスペースという構成。切妻屋根の形そのままの天井は最頂部の高さが約3.4mあり、頭上の広がりが実面積以上の開放感を感じさせている。階段ホールをフロアの真ん中に置き、左右をリビングとダイニングキッチンに分けたプランは、ストレートデザインラボラトリーが手がけた『世田谷ハウス』を踏襲したもの。「家族4人が過ごすLDKと、リモートワークできる場所、寝る場所としての個室があればいい」という要望を受け、『世田谷ハウス』のプランがMさんご家族の暮らしに合っているのではと考え、この土地のスケールに合わせてサイズを調整したプランを提案した。
2階はひとつながりの空間ながら、階段の腰壁がリビングとダイニングキッチンに程よい距離感をつくり、また、場所ごとに視線の方向が異なるよう家具をレイアウトしているため、それぞれの場所ごとの居心地がある。「家族がどこにいてもお互いを感じられる空間がいいと思っていた」と話すMさん。家族が一緒の空間にいながらも各々の作業や時間に耽ることができる空間は、過ごしやすそうだ。
「コロナ禍をきっかけに夫がリモートワークになったので、ワークスペースは当初は夫の仕事場になる予定だったんですが、今は子どもたちのスペースになっています。キッチンは壁付けでお願いしました。料理や作業に集中できる空間にしたかったんです。対面キッチンでなくても家族の声や気配は届くし、壁向きのほうがキッチンというひとつの空間で作業している感覚になれます」
1階も『世田谷ハウス』のプランがベースになっており、約7畳の寝室と約6畳の子ども室、洗面脱衣室と浴室、トイレを配置した。蹴込のない階段は上階へと視線が抜け、フレキシブルボードの床もモルタルの土間玄関とひとつながりになって、コンパクトな住まいに奥行きを演出している。ご主人が仕事場として使用中の子ども室は、将来2部屋に分けられるよう出入り口を2つ設けており、「子どもたちが大きくなったら、どう仕切るか本人たちに相談して決めようと思っています」とMさん。今はフレキシブルに使えるように出入り口の建具は付けず、収納も天井際の棚しかつくっていない。建具や造作収納を最低限にしたことは、コストダウンにもつながっている。
「収納らしい収納は、寝室のクローゼットとキッチン横のパントリーぐらい。アメリカで住んでいた家には収納もたっぷりありましたが、その分物も増えて、引っ越す時にはたくさんの物を捨てました。だから、収納はそんなに要らないと思ったんです。そもそも私は面倒くさがりなので、物がたくさんあっても管理しきれない(笑)。いつ来るかわからない来客のために客用布団を持つ必要もないですし、余計な物は持たないようにしています。住み始めてから一年ほどをかけて、今の形に収納が落ち着きました」
施主支給を多く取り入れているのも、『国立ハウス2』の家づくりの特徴だ。施主自らが建材を購入できるお店やネットショップは増えており、従来の工務店が材料を購入する場合に比べて、手間代分のコストが抑えられるのが施主支給のメリット。ただし、工事の段階ごとにその時に使う材料を揃える必要があるため、Mさんご夫妻は工事のタイミングを見計らいながら材料を手配していったそうだ。
「使う仕上げ材や設備機器の市場価格をチェックして、施主支給したほうが安くなる場合は施主支給、工務店が買っても変わらない場合は工務店側で手配という形で進めました。キッチンのタイルは、最初は『国立ハウス』と同じ白いタイルで考えていたのですが、仕上げの最終決定前にtoolboxで発売開始されたのを見つけて、マットな質感に惹かれて決めました。1階の床にグレーを取り入れているので、2階もカラーがリンクするようにグレーを選びました。洗面には、艶がある濃紺のタイルを使っています」
約80㎡、坪数は約24坪の現在の敷地を選んだのも、家づくりのコストを考えてのことだった。土地探しをしていた時には、この土地より広い土地もあったという。小さな家を建てて残りを庭にすることも考えたが、Mさんご夫妻の希望エリアは国立の中でも人気のエリアで、土地価格が高め。庭のために広い土地を買う形になることに違和感を抱き、現在の土地を選んだ。2階には庭の代わりとしてL型のバルコニーを設け、洗濯物を干す以外に、子どもたちの遊び場やグリーンの水やりをする場所として使っている。
「家づくりを考え始めた時、すでに長女は小学校に入学していたので、学区が変わらないエリアで土地を探したんです。ここを選んだのは小学校に近くて、道路に面した四角い土地だったということも理由のひとつでした。終の住処にするつもりですが、もしも将来この土地を手放すことがあったら、売る時に好条件になるかもしれないと思ったんです」
『国立ハウス』は延床面積が小さい分、
土地の選び方も、家のサイズもコストも。家族での過ごし方や物との付き合い方、子どもたちが巣立った後のこと、家族の今とこれからをしっかりと考え、無理がなく心地よいと思えるバランスを見極めた家づくり。必要最低限のサイズと内容で建てることはコストダウンにつながり、コストも身の丈に合った住まいは、そこに住み始めてからの暮らしと将来にゆとりをもたらすことにもつながる。Mさんご家族の住まいは、広さだけでははかれない“住まいの豊かさ”を考えさせてくれる。
※「2021年首都圏 新築分譲一戸建て契約者動向調査」/(株)リクルート調べ
https://suumo-research.com/
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