立川ハウス 2

tachikawa house 2

text by Kanako Satoh

photo by Hirotaka Hashimoto

立川ハウス 2

ゆっくり“好き”で満たしていく
ふたりの時間を大切にした住まい

「いくつかの住宅展示場を回って、いろいろなハウスメーカーやビルダーのモデルハウスを見学しましたが、建てたいと思える家には出会えませんでした。そもそも、自分はどういう家がほしいのかが、よくわからなかったんです。でも、いろいろ見て回るうちに、自分はペカペカした素材感が好きじゃないのかもと思うようになって。そんな時に、ストレートデザインラボラトリーを紹介されたんです」(浩子さん)

豊永則昭さんと浩子さんご夫妻は共に40代。浩子さんのご実家の土地の一部を譲り受け、約34坪の旗竿敷地に、延床面積約27坪の2階建てのマイホームを建てた。「設計事務所は敷居が高いイメージがあった」と話す豊永さんご夫妻がストレートデザインラボラトリーに家づくりを依頼したきっかけは、立川にある器のお店『H.works』へ浩子さんが買い物に訪れたこと。店主の園部さんとの世間話の中で、浩子さんが家の建築の依頼先が見つからないとこぼしたところ、『H.works』を設計したストレートデザインラボラトリーをおすすめされたという。

straight design lab | tachikawa house 2

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「行き詰まっていたこともあって、相談だけでもしてみようと思って。初めてお会いした時は、設計依頼というよりも、たくさんの住宅展示場を回ったけどピンと来るものに出会えなかったことなど、今までの経緯と状況をお話ししました。住宅展示場では、いくらまで借入できるとか、想定予算でどのぐらいのサイズの家が建てられるのかといった参考になる話もしてもらえるけれど、契約して欲しいという圧をどうしても感じてしまって、それが苦手でした。ストレートデザインラボラトリーの東端さんはそういった押しがなく、自然にお話しができて、お願いしてみようと思えました」(則昭さん)

過去に、セミオーダー仕様の規格住宅を具体的に検討したこともあった豊永さんご夫妻。しかし、結局は用意された選択肢の中からしか選べないことや、オプション扱いになって料金が追加される仕組みに、釈然としない思いを抱いていたという。「限られた選択肢の中で、『こうしたい』を無理やり捻り出して盛り込むより、プロが自分のために提案してくれるものに素直に乗った方が、良い家ができるんじゃないかという気持ちに変わっていきました」と浩子さんは話す。

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間取りについては「使いやすい家であればいい」と思っていたという豊永さんご夫妻。唯一リクエストしたのが「夫婦それぞれの個室」だった。則昭さんの仕事には夜勤と日勤があり、浩子さんの仕事は出社が遅く、帰宅も遅め。休日もバラバラなことが多いため、どちらかが就寝していてもそれを邪魔せずに過ごせるよう、1階にそれぞれの個室をつくった。それぞれの部屋へは夫婦共用のWICを通って出入りする。ホールから直接、各部屋へ出入りする動線にした場合に比べて、WICというワンクッションを挟むことで、帰宅後の気持ちの切り替えもゆっくりとできる。

「前に住んでいた賃貸の家は2LDKで、その時も別室就寝していました。私は『夫婦は一緒の寝室で寝るもの』だと思っていたので、結婚後に夫から別室を提案された時はびっくりしたのですが、いざ別室にしてみたら快適で。どちらかが寝ている時の音を気にしなくてもいいし、冷暖房の調整で揉めることもありません。夫婦でも、プライベートな場所や時間を持つことは大切なんだなと思いました」(浩子さん)

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1階のホールの奥には独立した洗面所をつくり、脱衣所はランドリールーム兼用にした。「もともと乾燥機と室内干しで乾かすことが多かった」(浩子さん)と言い、新居にはガス乾燥機を採用。脱衣所兼ランドリーには浩子さんの寝室からも出入りができ、洗濯して乾いた衣服をWICに片づけるまでを、短い動線で行うことができる。忙しい共働き夫婦の暮らしに、ゆとりをつくるアイデアだ。

「ガス乾燥機を使うとリネン類はクリーニング屋に出した時のようにふわふわになるし、乾くまでの時間もすごく早い。朝、起きてから洗濯機を回してガス乾燥機で乾かすと、乾いた服をしまうまでを出勤前に終えられるんです。その分、仕事から帰ってからの家事が少なく、のんびりできます。私の部屋は浴室も隣にあるので、浴室と部屋でアロマを焚いて、お風呂上がりにそのまま寝ちゃうことも。ひとり暮らしみたいで快適だなと思うこともあります(笑)」(浩子さん)

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2階は夫婦が一緒にくつろぐLDK。斜線制限いっぱいに頭上の空間を確保したリビングは、最頂部の天井高さが4.5mあり開放的だ。一方、ダイニングキッチンは、天井高さを抑えた落ち着く空間に。床は『世田谷ハウス』を見学して気に入ったというリノリウム。キッチンの100角白タイルは『国立ハウス』を参考にした。そうやって、豊永さんご夫妻が「好き」だと感じたものを盛り込みながら空間をつくっていった。

「リビングとダイニングキッチンはパーティションで仕切ってもらいました。『H.works』に使われていた中桟の入った木の建具が素敵だと思って、我が家にも取り入れたいと思ったんです。でも、年齢を重ねると趣味も変わっていくし、木の素材が多い家なので、そればかりじゃないほうがいいかもしれないと東端さんに相談をしたら、スチールフレームのパーティションになりました」(浩子さん)

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豊永さんご夫妻の「長く暮らす家だから」という考えは、シンプルなこの家を彩る照明器具選びにも及んでいる。リビングには1950年にデザインされて以降、多くの人に愛されているジャン・プルーヴェの「Potence」、ダイニングにはアイノ・アアルトの「AMA500」、リビングの補助照明にはオブジェのような佇まいをしたNEW LIGHT POTTERYの「SET」を選んだ。

「アアルトの『AMA500』は、家づくり中に限定色のグリーンが売られているのを見つけたんです。最初は色の主張が強いのでどうかなと思ったのですが、どんどん商品点数が少なくなっていくのを見て購入を決めました(笑)。その後、このペンダントライトに合わせるダイニングテーブルをどうするか悩んで、行き着いたのがアルヴァ・アアルトの『TABLE 90A』。家づくりの過程を経て、自分はこういうデザインが好きなんだなって、好みに気づいていきました」(浩子さん)

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アアルトのペンダントライトは、浩子さんが自分の“好き”を発見するきっかけになっただけでなく、室内のカラーコーディネートにも影響した。リノリウムの床は、フローリングとの色馴染みがいいテラコッタ色をセレクト。室内の壁は白ではなくウォームグレーで塗装して、パーティションのスチールフレームもグレーに。ラワンで造作した収納扉などの建具はオイルで仕上げたり、ペンダントライトのパーツとリンクする真鍮を玄関框に取り入れるなど、北欧の家具に似合う色味を考えながら選んでいったという。

「広い面の色選びは、悩みました。最初は、リノリウムの床はグレーを検討していたんですが、オークフローリングと並べた時にパキッと色味が分かれてしまうのが気になって。そうしたら東端さんが赤系を提案してくれて、『この色だ!』って。床を決めてから壁の色を検討して、木の色にもテラコッタ色の床にも馴染むウォームグレーで塗装してもらいました。外壁もグレーなんですが、思っていたよりも暗くならず、天気によって白っぽく見えたり落ち着いた色に見えて、気に入っています」(浩子さん)

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リビングにはソファではなく、カール・ハンセン&サンの「MG501 キューバチェア」を2脚置いた。折り畳んで持ち運びができ、屋外でも使用できるタイプなので、バルコニーで使うことも考えているそうだ。ソファからパーソナルチェアに変えた知人に影響を受け、ソファを手放したという浩子さん。「家具は軽やかなものの方が良いと思うようになった」と話すが、物を増やさない主義というわけではなく、住み始めてまだ3ヶ月の余白がたくさんあるこの家を、今後ゆっくりと時間をかけて満たしていくつもりだ。

「家づくり中に断捨離をしました。大きくて重いものや、今の好みに合わないと思うものは思い切って手放して、新しい家で好きなものを見つけて揃えようと思ったんです。とりあえずで買うともったいないと思って使い続けてしまうので、じっくり選んでいきたい。今はリビングに敷く敷物を探していて、オーディオやプロジェクターも揃えて音楽や映画も楽しみたいと思っています。夫は自室の蔵書を増やしていくだろうし、私は祖母から譲り受けたミシンを使って裁縫をしてみようかなって。犬か猫を飼う構想もあります。この家に暮らし始めてから、やりたいことがたくさん出てくる。家のことを考えるのが、とても楽しいです」(浩子さん)

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