世田谷ハウス

setagaya house

text by Kanako Satoh
photo by Hirotaka Hashimoto

世田谷ハウス

故きを温ねて新しきに活かす
欲しかったのは時を経るほどに良くなる家

レンガ敷きのアプローチとガラスブロックで構成された玄関が、昭和の戸建てを思わせる「世田谷ハウス」。この家に暮らすのは、40代のご夫婦とお子さん2人のOさんご家族だ。「古き良き住宅」のディテールが随所に散りばめられたその住まいには、すでに長くここに暮らしてきたかのような心地よい空気が漂っていた。

straight design lab | setagaya house

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「最初は建売住宅を見ていました。でも、“この家はいいかな”と思っても、どこか気に入らないところを見つけてしまう。見学に行くたびにそんなことを繰り返して、かかる費用が同じくらいなら、自分たちで細部まで決めてつくった方がいいなと思ったんです。この土地は、3方向が開けていて日当たりが良く、隣家との距離もあり、近隣からの視線を気にせずに暮らせそうだったことが選んだ理由でした」

シンプルな四角い箱に切妻屋根を乗せた住まいは、1階が寝室と子供室とウォークインクローゼット、サニタリーで構成され、2階は階段を囲むようにリビングとダイニングキッチンがつながった間取り。リビングの奥には、趣味で服飾雑貨を作っている奥さんのためのアトリエも設けた。外観の屋根形状そのままの高い天井が広がる2階は、パノラマ状に連なる腰高窓がその開放感をさらに高めている。

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「2階はどの窓からも眺めが良くて、とても気に入っています。特にダイニングの窓は東に向いていて、朝がとても気持ちがいいんです。2階に掃き出し窓とバルコニーを付ける案もあったのですが、1階のテラスと庭で十分だと思い、付けませんでした。ソファや床に座っていると、窓からは空しか見えなくて、近隣からの視線も気になりません」

プランニングの際は、ストレートデザインラボラトリーが作った家の模型を持ち帰り、プラン変更がある度に自分たちで変更通りに模型に手を入れ、中にスマホを入れて写真を撮り、空間の見え方をシミュレーションしていったというOさんご夫妻。特に、窓のサイズや位置ついてはこだわり、当時住んでいた家の壁にマスキングテープを貼ってサイズ感を確認するなど、入念に検討したそうだ。

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「リビングの窓辺は奥行きの浅い出窓にしてもらいました。以前暮らしていた古い戸建てに奥行きの浅い出窓があって、その窓辺が好きだったんです。窓枠やドアの枠は、修繕でペンキが塗り重ねられた昔の家のような仕上がりにしたくて、クリーム色の艶感が強い塗料で仕上げてもらっています」

出窓の奥行きは20cmほど。ほんのわずかなスペースだが、グリーンを飾ったり、肘を置いて外を眺めたりできる、暮らしにゆとりを生むスペースになっている。古い建物が好きで、築年数を経た木造の戸建てやマンションに暮らしてきたというOさんご夫妻。これまでに住んだ古い家々のお気に入りのディテールを新しい家に盛り込むことが、家づくりの際の要望だった。

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「ストレートデザインラボラトリーに設計を依頼したのは、雑誌で見た『HOMEBASE』がきっかけでした。新築の住宅にアンティークのパーツを取り入れているところに惹かれて、連絡をしたんです。お話をするために『国立ハウス』に伺った時、建ってから10年経ったその家の佇まいがすごく良くて、その場で設計依頼を決めました。新築の状態が一番良いという家は嫌でした。古くなっても良くなる家に住みたかったんです」

時を経て味わいを増す家にしつつ、建った時点でも適度に古びた雰囲気を目指したというOさんご夫妻。古いマンションやビルの手摺りをイメージしてスチールと木で造作した階段の手摺や、各所に設けた明かり取りの室内窓、経年して色が濃くなったような色味で仕上げたシナ合板造りの収納、そこに取り付けた昔からある形のツマミなど、細かなディテールの積み重ねで、Oさんご夫妻が使ってきた古い家具や雑貨にも馴染む、懐かしい雰囲気を空間につくり出した。

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「キッチンは、ごちゃごちゃをあまり見せたくなかったので、オープン過ぎない空間にしてもらいました。タイルは定番ものが使いたくて、100角の白タイルを選びました。HAYの「インディアンラック」は個人輸入したものです。オリーブグリーンの床は、水廻りに使えて床暖房にも対応する素材として、ストレートデザインラボラトリーが提案してくれたリノリウム。各色のサンプルを取り寄せて、手持ちの古い椅子やテーブルに似合う色を選びました」

古い家のテイストを取り入れる一方で、快適な暮らしのための機能もしっかり求めたOさんご夫妻。古い家での暮らしは冬が寒かった経験から、2階のダイニングキッチンとリビング、1階の子供室には床暖房を取り入れた。階段ホールが吹き抜けており、1階と2階がつながるワンルーム的な大空間だが、冬はエアコンを使わないほど暖かいそうだ。

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「今まで住んできた家で自分たちの好きなものや生活スタイルもわかっていたので、設計の際、要望をスムーズに伝えることができました。床暖房のほかに叶えたかったのは、寝室から独立したウォークインクローゼット。洗面室から出入りができるので、夫が仕事で深夜に帰宅しても、寝ている家族が物音で起きてしまうことがなくなりました」

主寝室とウォークインクローゼットには、Oさんご夫妻がどこかに使いたかったというパーケットフローリングを採用。ウォークインクローゼットは寝室とテラスにも出入りすることができ、身支度動線も洗濯動線も快適だ。

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「子供室にはドアをつけて、ホールの部分は土間にしようかとも思ったんですが、一体に使える空間にして良かったです。子供部屋をつくっても、結局子供は親のいるリビングにいるというケースをよく聞きますが、この家は吹き抜けを通じて声が届くので安心するんでしょうね。子供たちは1階で遊んでいることが多いです」

異なる場所にいても、お互いの様子が伝わる距離感が心地よいと話すOさんご夫妻。リビング、ダイニング、キッチンをコの字型に配置した2階も、一室空間でありながらそれぞれの場所で過ごす際の視線がぶつからないことで、場所ごとにこぢんまりとした居心地が生まれている。

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「2階は天井からの照明の数を絞って、その分ブラケットライトを取り付けたり、テーブルランプやフロアランプを各所に置いているのですが、夜にそうした明かりの中でくつろぐ時間もお気に入りです。夜に帰宅して我が家を見た時、窓から明かりが漏れている様子がとてもいい雰囲気なんです」

大屋根の下に広がる一体空間に、開放感と落ち着きが同居する住まい。そんな相反する居心地を両立させているのは、空間のレイアウトや窓の大きさといった設計デザインだけでなく、古い家のディテールの反映や置かれた家具や小物、照明使いなど、Oさんご夫妻ならではのセンスだ。Oさんご夫妻が古い家に感じた、時を経ても色褪せない魅力を映した空間は、これから実際に年月を重ねることで、その真価を発揮していくのだろう。長く住むことが楽しみになる住まいだ。

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