五反田フラット

gotanda flat

text by Kanako Satoh

photo by Natsuki Hamamura

五反田フラット

家でのんびり過ごすのが心地いい
「普段着」のような質感のワンルーム

30代のIさんがリノベーションしたのは、山手線駅から徒歩圏内にある築50年のマンション。約43㎡のワンルーム空間を構成しているのは、適度に節が入ったオークのフローリング、コンクリート躯体を直に塗装した壁天井、ラワンで造作した建具、合板で作った台に天板を乗せたシンプルなキッチン。ざっくりした素材たちでつくられた空間はおおらかな雰囲気で、“気負わずに着られる普段着”のような印象だ。

straight design lab | gotanda flat

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「ひとり暮らしを始めて以降、“休日を家で過ごしたい”と思える家に住んだことがなかったんです。これまでに暮らしていた賃貸の家は、狭かったり西日が強かったりで家にいるのが嫌で、平日の仕事で疲れているにもかかわらず、休日は必ずどこかに出かけていました。この家は、ずっと家で過ごしていても楽しい。“週末は家でのんびりする”という習慣ができました」

Iさんが以前住んでいた賃貸アパートは、ベッドとテレビを置いたらいっぱいになるような部屋だったそう。通勤に便利な立地は気に入っており、同じエリアでマンションを買うことを漠然と考えていたところ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリモートワークになったことが、住宅購入へのモチベーションを後押ししたそうだ。

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「最初はリノベーション済み物件を見ていました。1軒目に内見した物件がとても良かったんですが、他を見ないで決めていいのかな? と躊躇っていたら売れてしまって。その後もいくつかのリノベーション済み物件を見たんですが、何かと部屋を仕切ろうとする間取りばかり。私はワンルーム空間で良いし、40㎡ぐらいは広さが欲しいと思うとなかなか物件がなくて。リノベーションするのもアリだな、と考え始めたところで、この部屋を見つけました」

南向きの窓からは燦々と光が注ぎ、明るく開放感を感じる住まいだが、以前の間取りは2DKで、造り付けの収納が多く圧迫感のある空間だったという。ワンルームにリノベーションされた住まいは、玄関から窓辺まで空間がつながり、ベッドスペースは胸高さのパーティションで緩やかにゾーニングした。この木製格子のパーティションは、Iさんのご友人が購入した古いマンションで建具として使われていたもの。ご友人が家をリノベーションした際に使い道がなく保管していたものを譲り受け、パーティションとして再利用した。

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「もし将来、家族が増えたら、とも考えましたが、“今の自分”にピッタリくる家にしたいなと思いました。寝室は閉じたくないし、移動のたびにドアを開け閉めするのも面倒なので、建具も極力付けませんでした。なるべく空間をすっきりさせたかったので、収納もキッチンも壁に寄せています」

ベッドスペースの壁側は一面の収納を造作。ラワン合板で作った引き戸は一枚が幅100cm、高さが220cmと大判で、建具と言うよりも板壁のような存在感で空間をゆったり見せる効果を生んでいる。大容量のこの収納には、衣服に書籍、寝具や季節用品など、あらゆるものを収納。大判の引き戸は開けると中の収納が一覧しやすく、Iさんは普段は開けっ放しにして使っているそうだ。

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生活感が露出しがちなワンルーム空間を整える仕掛けはキッチンにも。エントランスホールとキッチンのあいだにパントリーを造作し、オーブンレンジや食器、食材はここに収納。リビングダイニングとベッドスペースからのキッチンの眺めをすっきりさせた。キッチンの壁面に縦貼りした白タイルは凛とした佇まいで、おおらかな雰囲気の空間のアクセントになっている。造作したキッチンのサイズは、ひとり暮らしにしては幅広の250cm。Iさんはこのキッチンで、日曜日はお弁当用の作り置きを作っているという。

「一週間分のお弁当のおかずを6種類くらい作っています。以前は一品一品作っていたけど、火力が強い3口コンロを入れたのと、ダイニングテーブルも作業台として使えるので、複数品目を同時に作れるようになりました。疲れたらリビングで休憩して、またキッチンに戻って、とのんびり作業しています」

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そんな週末の過ごし方に加え、「お風呂にゆっくり入るようになったこと」もこの家に暮らし始めてから変わったことだとIさんは話す。躯体のコンクリート壁に囲まれていたバスルームは壁を壊して広くすることが難しく、極小のユニットバスしか入らないサイズだったため、床と壁をタイルで仕上げ直して、床面が広く見えるように置き型のバスタブを採用した。

「以前はお風呂に入ることを面倒だと思っていたんですが、今はバスルームがかわいいので積極的に入るようになりました(笑)。バスルームに使ったタイルは、水彩絵の具を塗ったような淡いブルーが気に入りました。水垢がついても目立たなそうというのも選んだ理由。洗面とキッチンのタイルはこれの色違いです。カタログに載っていた施工イメージ写真は横貼りだったんですが、ストレートデザインラボラトリーとの打ち合わせで、縦貼りにしてもすっきりした印象になっていいねという話になり、こうしました」

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洗面出入り口は、明かりを取り入れられるよう磨りガラス入りのドアを造作。ヴィンテージな鍵付きのドアノブは、ストレートデザインラボラトリーがストックしていたもの。鍵は差しっぱなしにして、インテリアにしている。洗面室とホールの床はフレキシブルボード貼りで、土間のような雰囲気を持ちつつ、床下のメンテナンスが必要になった時に取り外しできる利点もあり、採用された。ホールの壁のウォームグレーはIさんが選んだカラー。この壁を含む壁と天井は、Iさんとご友人がDIYで塗り上げた。

「友人の家のリノベーションで塗装を手伝ったことがあって、塗装なら自分でできる!と思ってやらせてもらいました。どこをどう塗るかは、ストレートデザインラボラトリーと一緒に現地で空間を見ながら決めていきました。色を決める際は、サンプルの塗料を塗った板を壁に当てて、色の見え方を確認していきました」

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コンクリート躯体現しの表情を残して塗装された壁天井と、天井を走る今は使われていない暖房設備のパイプ管。この空間のざっくりとした印象を際立たせているこれらを生かすために、天井付けの照明は数を絞り、壁付け照明をメインにした。夜はスポットごとの明かりがワンルームの中に陰影をつくり、一層親密な空気感を生み出すのだろう。忙しい平日の夜も穏やかな気持ちで過ごすことができそうだ。

「コンクリート躯体現しの表情を生かしたいと思っていたんです。ストレートデザインラボラトリーからは、お店やオフィスと違って、住宅では照明の明かりが欲しい場所は大体決まってくると聞いて、ライティングレールを使わず照明を付ける場所を絞りました。リビングのアームライトは京都のアンティークショップで選び、洗面室やホールのブラケットライトは友人が教えてくれたベルギーのネットショップで買いました」

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古い建物ならではの質感を生かしつつ、今の自分に必要なものだけを足してつくった空間。そこを彩るのは、Iさんが初めて一人暮らしを始めた時から使っているという京都・二葉家具のコンパクトソファや、色とりどりのファブリックやスツール、窓辺に気ままに置かれたグリーンに、壁の電線管をクリップ代わりにして飾られた雑貨。「家で過ごしたいと思えなかった」というかつてとは異なり、今の住まいを気負いなく楽しんでいるIさんの暮らしぶりが窺える。

「振り返ってみると、今までの家は立地や家賃を優先して選んでいて、“住みたい空間”という視点で選んだことがなかったんですよね。“賃貸だから”とはじめから諦めていたところもあるかもしれません。この家は陽当たりも窓からの眺めも良いし、住み始めたらサイズ感もちょうど良くて、今の暮らしをとても気に入っています」

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