立川ハウス

tachikawa house

text by Kanako Satoh
photo by Akira Nakamura

立川ハウス

「半屋外空間」が広げる暮らしのシーン
たくさんの居場所がある、つくり込んでいく家

「立川ハウス」に暮らすWさんご家族は、40代のご主人と30代の奥様、小学生の長女と長男の4人家族。立川市の住宅街に建てたマイホームは、延床面積が約98㎡の木造2階建てで、間取りはリビングとダイニングキッチンと小上がり、納戸と主寝室と将来2部屋に分けられる子ども部屋。と言うと普通に聞こえるが、この家には間取り以上の居場所と、さまざまな暮らしのシーンを生み出す仕掛けがある。そのひとつが「半屋外空間」だ。

straight design lab | tachikawa house

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当初は、自転車屋さんに持っていってメンテナンスやカスタマイズをお願いしていたんですが、だんだん自分でいじるようになりました。家を建てる前に暮らしていたアパートでは駐輪場は野晒しで、作業できる場所もなく、だから家を建てるなら、屋根付きの自転車置き場と作業ができる場所が欲しかったんです」(ご主人

大きな庇に覆われたポーチはコンクリートの土間床に。家族4人分の自転車を置いても余裕の広さがあり、雨の日でも気兼ねなくメンテナンスに勤しむことができる。「駐輪のための屋根付きのポーチ」は贅沢にも聞こえそうだが、家族の日常の足となり、ご主人にとっては「通勤の足」以上の愛着がある自転車に定位置を与えることは、心地よい生活を送るためのマストアイテム。ポーチは、家のファサードにゆとりを感じさせる効果も生んでいる。

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「僕はマウンテンバイクやスキー、スノーボードも趣味なんです。グッズのメンテナンスが家の中でもできるように、玄関の三和土だけでなく、玄関ホールもリビングも土間にしてもらいました。あと、美容師をやっている妻が家で家族のヘアカットをしてくれるんです。土間床にしておけばカットした髪の毛の掃除も楽ですから。玄関ホールには妻の希望でシャワー付きのシャンプー台も取り付けてもらいました」(ご主人)

手洗い場も兼ねたシャンプー台の隣にはトイレがあるが、「トイレの存在感をなくしたい」という奥様のアイデアで、ドアにはハンドルの代わりにIKEAのタオルハンガーを取り付け。それにより「ドア」の存在感が消え、ヘアサロンのシャンプーコーナーのような雰囲気に。シャンプー台を取り付けた壁を腰高さまで白タイル貼りで仕上げたことも、「玄関ホール」としてだけではない空間の居心地を生み出している。

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「リビングがモルタルの土間なので“寒くないの?”と聞かれるのですが、冬の寒い時は床暖房を入れたダイニングで過ごすし、夏は土間のリビングが涼しい。季節によって過ごす場所を変えればいいと思っています」(ご主人)

移動型民族のような考え方がユニークなWさんご家族だが、そんな考え方ができるのも、この家にはさまざまな「居場所」があるから。土間リビングの横には、庭へと続くウッドデッキを造作。奥行きを1.8mとたっぷり設けたウッドデッキは、ハンモックを広げたりアウトドアチェアを置いても十分な広さ。土間床のリビングと相まって、「半屋外のリビング」として家族の日常の中に活きている。

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ダイニングの一角に設けた3帖ほどの小上がりも、フレキシブルに使える「居場所」のひとつ。子どもの遊び場になったり、勉強スペースになったり、食後に家族でくつろいだりする、家族の憩いの場だ。リビングとはあえて壁で仕切ることで、独立感のある空間に仕立てている。小上がりの床下にある収納はご主人がDIYで造作。キャスターと把手付きで、引き出せるようになっている。小上がりに置かれた棚のようなテーブルと、ダイニングにある子どものデスクもご主人の作だ。

「あらかじめつくり込んだものが用意されているよりも、どこにどんな収納や家具があったら自分たちの暮らしに合うか、イメージしながら決めていきたくて。だから室内の壁も、棚などが取り付けやすいように合板に塗装で仕上げてもらいました。前のアパートは3LDKでしたが、使わない部屋があったり、収納が分散していて使いづらく、僕らのライフスタイルに合っていないなと感じていました。暮らしながら自分たちに合う形にしていきたいから、間取りもインテリアもつくり込まれていない家を望んでいたんです」(ご主人)

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そんなマイホームを思い描きながら家づくりの依頼先を探し、出会ったのがストレートデザインラボラトリー。その設計事例を見て、「生活感を感じるけれど整っている」と感じたと奥様は話す。白い100角タイルが整然とした雰囲気を醸しつつ、下部がオープンになったキッチンも、まさにそんな空間だ。

「キッチンの、流しの下にある扉付き収納が好きじゃなくて。なのでオープンにしてもらいました。ダイニングとキッチンを仕切る食器棚兼カウンターは、ストレートデザインラボラトリーに設計してもらい、大工さんに作っていただいたもの。円形のダイニングテーブルは、スペースに収まるようにcampの大原温さんに作ってもらいました。円形のテーブルは、お客さんが来た時もみんなでテーブルを囲みやすいですね」(奥様)

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家族の居場所のほかにこの家で着目したいのは、夫と妻の「それぞれの居場所」もあること。玄関ホールの先に設けた約4帖の納戸は、ご主人の趣味のアイテムの収納場所であり、趣味の部屋でもある。天井側の棚や跳ね上げ式のカウンターデスクは、ご主人のDIYによるもの。新型コロナウイルスの感染拡大により子どもの学校や保育園が休みになった期間は、こもれる仕事部屋としても重宝したそうだ。

「私もこもれる空間が欲しかったので、キッチン横のパントリーにカウンターデスクをつくってもらいました。リビングやダイニングの気配を感じながらも一人になれる場所で、気に入っています」(奥様)

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主寝室と子ども室がある2階も、つくり込み過ぎていない大らかな空間。子ども室は割り切って北側に配置した。開口は控えめだが、片流れ屋根による勾配天井が屋根裏的な楽しさを感じさせる空間だ。南側のバルコニーに面した主寝室はその天井高さを活かして、ラフに収納ができる枕棚を造作した。

「子ども室は将来2部屋に分けられるように、壁に柱を入れてもらいました。でも、壁を立てずに収納家具で仕切るかもしれません。子どもがいる今のライフスタイルだけに合わせてしまうと、いつか夫婦2人になった時には合わなくなってしまうから。その時その時の暮らし方に合わせて、家の中をつくっていけばいいと思っています」(ご主人)

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2階の南側にはバルコニーと洗面脱衣室、浴室を配置。ハイサイドライトから光が注ぐ浴室と、洗面脱衣室と一体化させたトイレ、バルコニーに面した洗面脱衣室はどこも開放的で、洗濯も身支度も気持ちが良さそうだ。トイレを洗面脱衣室と一体にしたことは、子ども室にたっぷりの広さを確保することにもつながっている。

「最初は北側に水回りを配置するプランもあったんですが、南側に移動してもらいました。家族みんなが使う場所だから、気持ちが良いところにしたくて。でもここだけじゃなく、小上がりで寝転がっているのも、リビングのソファに座るのも、バルコニーも庭も、どこにいても気持ちが良い。居場所がたくさんある家です」(ご主人)

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