浦和ハウス
urawa house
House
text by Kanako Satoh
photo by Akira Nakamura
5人家族の未来をおおらかに受け入れる
大きな土間があるワンルームのような一戸建て
埼玉県さいたま市の古くからの住宅地に建つ「浦和ハウス」。この家に住むのはSさんご夫妻と、15歳の長男、4歳の次男、3歳の三男の3兄弟。家族5人が暮らすためのマイホームづくりでSさんご夫妻が求めたのは、今後変わり続けていく家族の暮らしに応える自由度のある空間だった。
ウッドデッキを通ってアプローチする玄関。引き戸を開けて中に入ると、広がるのは大きな土間空間だ。モルタルの床は家の奥まで続き、ウッドデッキ側に設けた掃き出し窓が取り込む外の景色や、階段の吹き抜けから落ちる光と相まって、屋外のような開放感がある場所になっている。
「長男が小学生の頃、お友達を連れて帰って来ることが多かったんです。次男と三男もいずれ小学生になるので、玄関を入ってすぐに広い場所があったら、気軽にお友達を連れて来れるんじゃないかと思って。この辺りは、以前は大きな家だったところを2軒や3軒分に分けた土地に建つ家が多いんですが、運良く間口が広い土地に出会えた。家の中も、外に対しても開かれた、おおらかな家にしたかったんです」(奥様)
玄関を入ってすぐ、土間の右横に広がるパイン床のスペースは、目下のところキッズスペース。その隣には現在、長男が使っている個室があるが、長男の「部屋を閉じたくない」という意向もあり、壁の上部は欄間状にして声や気配が届くつくりになっている。キッズスペースは将来、次男と三男の部屋として使うことを想定しているが、壁は立てずに家具で仕切るつもりだと言う。
「子供部屋はひとつしかつくりませんでした。長男と下の子たちの年齢が離れていて、個室が必要になる時期が違うので、フレキシブルに使える場にしておきたいと思って。将来、私たちの親と同居する可能性もあるし、私たち自身が高齢になったら1階で生活する可能性もあります。家をつくる時って、どうしても今の家族の姿に目がいきがちですが、子供はすぐ育つもの。今の時点で空間の使い方を決め込んでしまうよりも、後から使い方を変えられる自由度がある空間にしたいというのが、当初からの希望でした」(奥様)
玄関の外に設けたウッドデッキも、家族の暮らしの変化に対応するための要素。現在は自動車を所有していないが、もし将来家族の誰かが車を持ったときには、ウッドデッキを撤去すれば駐車スペースが確保できる。
「庭にすることも考えましたが、東向きであまり日当たりが良くないことと、家のどこかにウッドデッキを取り入れたかったこともあって、こうしました。子供たちが土間からそのままウッドデッキに出て遊んでいたりして、外のようにも中のようにも使える場所として重宝しています。目の前の通りは車の交通量が多いので、通りとの緩衝帯の役割も兼ねる場所になってくれました」(ご主人)
玄関から土間でひと続きになったサニタリーも、「自由度のある空間」を求めた結果だ。Sさんご一家はもともとシャワー派ということもあり、壁で囲ったシャワーブースと洗濯機ブースをつくり、洗面スペースはオープンに。浴槽は脚付きの置き型を選び、脱衣所を兼ねた空間としてシャワーカーテンで仕切っている。天井にはハンガーパイプが付いており、入浴時や洗顔時にはタオルを掛けたり、室内干し場所としても使える、多機能な空間だ。
「湯船には時々浸かれればいいし、だったら浴室として閉じてしまうよりも、使い方が広がる場所になるといいかなと思って。夏の暑い日はプール感覚で使ったりしています。洗面スペースは隣に掃き出し窓もあって開放的。ここで顔を洗うのはとても気持ちがいいし、洗濯物の下洗いなどの作業もしやすいんです」(奥様)
階段の吹き抜けで1階とつながる2階も、和室の引き戸を開ければ全体が一体になる空間。完全に閉じられているスペースがほとんどない、家全体がワンルームのような住まいだが、設計初期のプランは今よりも家族個々人のプライベート空間が重視された内容だった。しかし、Sさんご夫妻の「もっとオープンな空間にしたい」という意向から、試行錯誤を重ねて現在のプランにたどり着いたという。
「当初から導入したいと思っていた薪ストーブは、この家に最適でした。冬は階段の吹き抜けを通じて暖かい空気が回って、2階もロフトも家中が暖かい。薪ストーブでピザを焼いたり鍋をやったり。冬は1階がリビングダイニング状態になります」(ご主人)
2階のキッチンは「ダイニングの自由度が少なくなる」という理由から壁付け型に。対面型にすると、レンジフードや吊棚によって三角天井の抜け感が損なわれてしまうということも理由だった。造作のカウンター収納は床に固定しておらず、空間の使い方に合わせて動かすことができる。小さな子供がいる生活だが、子供たちが家のどこにいてもその様子が把握できる空間なので、対面型でなくとも不便はないそうだ。
「直径が150cmあるダイニングテーブルは、campの大原温さんにオーダーしたもの。ストレートデザインラボラトリーの東端さんに“リビングの家具や収納家具はなくても生活できるけど、食事をするテーブルは絶対に必要なもの”と言われて、近所に住む親族と一緒に食事をすることも多いので、天板の広さが足りなくなることがないよう、大きなサイズで作ってもらいました」(奥様)
現在、夫婦と幼い兄弟たちは、リビング横の和室が寝床。起床時は押入れに寝具を片付け、和室もリビングの一部として使っている。和室に合わせて低めに設けた出窓は、「ムーミン」好きな長男のリクエストを取り入れた場所。ベンチになったり、棚になったり、テーブルになったりと、次男と三男の遊び場としても活躍している。
「ベッドへの憧れはありましたが、ベッドを置くと、寝室としてしか使えない場所になってしまうから。和室はフレキシブルに使えるのでいいですね。ソファはデンマークの建築家、フィン・ユールの自邸のベンチソファへの憧れがあって、そのイメージでcampの大原さんにデザインしてもらいました。大きくてゆったりしていて、家族のお気に入りのソファです」(奥様)
物の露出がほとんどない空間だが、それを可能にしているのは、要所要所にしっかりボリュームを確保して設けた収納スペース。家族の衣服はサニタリー横のウォークインクローゼットに、調理器具や食品ストックは冷蔵庫と共にキッチン横のパントリーに、本や漫画はロフトに収納。各居室に細々と収納を造作すると、収納によってその場所の使い方が制限されてしまうが、何もない壁面やフロアを多く残すことで、自由な空間の使い方を可能にした。
「実は整理収納が苦手なんです。服を畳むのも得意じゃないし、家族それぞれの物を仕分けして、それぞれの場所に片付けるのは大変。サニタリー横のウォークインクローゼットは、サニタリーで洗って干して、乾いたらそのままハンガーパイプに戻したり収納ボックスに入れればいいので楽ちん。壁面やフロアに余裕があるので、今後気に入る家具に出会ったら、それをレイアウトしていくという楽しみも生まれました」(奥様)
徹底して「空間の自由度」にこだわってプランニングされた「浦和ハウス」。長く住む家だからこそ、暮らしの中で変り続けるもの、変わらずに必要なものをしっかり見極める。「変わること」をポジティブに受け止めるおおらかな空間は、家族それぞれの生き方への考えも自由にするようだ。
「この家には、住みながらつくっていける余地がたくさんある。下の子供たちがもう少し大きくなったら、1階を仕事場にして家で働くこともできるかも。子供たちが望めば、ロフトを子供部屋にする可能性もありますね。夫は自分の部屋にしたいと考えているかも。いろんな可能性を考えながら暮らせるのが、楽しいです」(奥様)
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