立川ハウス

「半屋外空間」が広げる暮らしのシーン
たくさんの居場所がある、つくり込んでいく家

「立川ハウス」に暮らすWさんご家族は、40代のご主人と30代の奥様、小学生の長女と長男の4人家族。立川市の住宅街に建てたマイホームは、延床面積が約98㎡の木造2階建てで、間取りはリビングとダイニングキッチンと小上がり、納戸と主寝室と将来2部屋に分けられる子ども部屋。と言うと普通に聞こえるが、この家には間取り以上の居場所と、さまざまな暮らしのシーンを生み出す仕掛けがある。そのひとつが「半屋外空間」だ。

当初は、自転車屋さんに持っていってメンテナンスやカスタマイズをお願いしていたんですが、だんだん自分でいじるようになりました。家を建てる前に暮らしていたアパートでは駐輪場は野晒しで、作業できる場所もなく、だから家を建てるなら、屋根付きの自転車置き場と作業ができる場所が欲しかったんです」(ご主人

大きな庇に覆われたポーチはコンクリートの土間床に。家族4人分の自転車を置いても余裕の広さがあり、雨の日でも気兼ねなくメンテナンスに勤しむことができる。「駐輪のための屋根付きのポーチ」は贅沢にも聞こえそうだが、家族の日常の足となり、ご主人にとっては「通勤の足」以上の愛着がある自転車に定位置を与えることは、心地よい生活を送るためのマストアイテム。ポーチは、家のファサードにゆとりを感じさせる効果も生んでいる。

「僕はマウンテンバイクやスキー、スノーボードも趣味なんです。グッズのメンテナンスが家の中でもできるように、玄関の三和土だけでなく、玄関ホールもリビングも土間にしてもらいました。あと、美容師をやっている妻が家で家族のヘアカットをしてくれるんです。土間床にしておけばカットした髪の毛の掃除も楽ですから。玄関ホールには妻の希望でシャワー付きのシャンプー台も取り付けてもらいました」(ご主人)

手洗い場も兼ねたシャンプー台の隣にはトイレがあるが、「トイレの存在感をなくしたい」という奥様のアイデアで、ドアにはハンドルの代わりにIKEAのタオルハンガーを取り付け。それにより「ドア」の存在感が消え、ヘアサロンのシャンプーコーナーのような雰囲気に。シャンプー台を取り付けた壁を腰高さまで白タイル貼りで仕上げたことも、「玄関ホール」としてだけではない空間の居心地を生み出している。

「リビングがモルタルの土間なので“寒くないの?”と聞かれるのですが、冬の寒い時は床暖房を入れたダイニングで過ごすし、夏は土間のリビングが涼しい。季節によって過ごす場所を変えればいいと思っています」(ご主人)

移動型民族のような考え方がユニークなWさんご家族だが、そんな考え方ができるのも、この家にはさまざまな「居場所」があるから。土間リビングの横には、庭へと続くウッドデッキを造作。奥行きを1.8mとたっぷり設けたウッドデッキは、ハンモックを広げたりアウトドアチェアを置いても十分な広さ。土間床のリビングと相まって、「半屋外のリビング」として家族の日常の中に活きている。

ダイニングの一角に設けた3帖ほどの小上がりも、フレキシブルに使える「居場所」のひとつ。子どもの遊び場になったり、勉強スペースになったり、食後に家族でくつろいだりする、家族の憩いの場だ。リビングとはあえて壁で仕切ることで、独立感のある空間に仕立てている。小上がりの床下にある収納はご主人がDIYで造作。キャスターと把手付きで、引き出せるようになっている。小上がりに置かれた棚のようなテーブルと、ダイニングにある子どものデスクもご主人の作だ。

「あらかじめつくり込んだものが用意されているよりも、どこにどんな収納や家具があったら自分たちの暮らしに合うか、イメージしながら決めていきたくて。だから室内の壁も、棚などが取り付けやすいように合板に塗装で仕上げてもらいました。前のアパートは3LDKでしたが、使わない部屋があったり、収納が分散していて使いづらく、僕らのライフスタイルに合っていないなと感じていました。暮らしながら自分たちに合う形にしていきたいから、間取りもインテリアもつくり込まれていない家を望んでいたんです」(ご主人)

そんなマイホームを思い描きながら家づくりの依頼先を探し、出会ったのがストレートデザインラボラトリー。その設計事例を見て、「生活感を感じるけれど整っている」と感じたと奥様は話す。白い100角タイルが整然とした雰囲気を醸しつつ、下部がオープンになったキッチンも、まさにそんな空間だ。

「キッチンの、流しの下にある扉付き収納が好きじゃなくて。なのでオープンにしてもらいました。ダイニングとキッチンを仕切る食器棚兼カウンターは、ストレートデザインラボラトリーに設計してもらい、大工さんに作っていただいたもの。円形のダイニングテーブルは、スペースに収まるようにcampの大原温さんに作ってもらいました。円形のテーブルは、お客さんが来た時もみんなでテーブルを囲みやすいですね」(奥様)

家族の居場所のほかにこの家で着目したいのは、夫と妻の「それぞれの居場所」もあること。玄関ホールの先に設けた約4帖の納戸は、ご主人の趣味のアイテムの収納場所であり、趣味の部屋でもある。天井側の棚や跳ね上げ式のカウンターデスクは、ご主人のDIYによるもの。新型コロナウイルスの感染拡大により子どもの学校や保育園が休みになった期間は、こもれる仕事部屋としても重宝したそうだ。

「私もこもれる空間が欲しかったので、キッチン横のパントリーにカウンターデスクをつくってもらいました。リビングやダイニングの気配を感じながらも一人になれる場所で、気に入っています」(奥様)

主寝室と子ども室がある2階も、つくり込み過ぎていない大らかな空間。子ども室は割り切って北側に配置した。開口は控えめだが、片流れ屋根による勾配天井が屋根裏的な楽しさを感じさせる空間だ。南側のバルコニーに面した主寝室はその天井高さを活かして、ラフに収納ができる枕棚を造作した。

「子ども室は将来2部屋に分けられるように、壁に柱を入れてもらいました。でも、壁を立てずに収納家具で仕切るかもしれません。子どもがいる今のライフスタイルだけに合わせてしまうと、いつか夫婦2人になった時には合わなくなってしまうから。その時その時の暮らし方に合わせて、家の中をつくっていけばいいと思っています」(ご主人)

2階の南側にはバルコニーと洗面脱衣室、浴室を配置。ハイサイドライトから光が注ぐ浴室と、洗面脱衣室と一体化させたトイレ、バルコニーに面した洗面脱衣室はどこも開放的で、洗濯も身支度も気持ちが良さそうだ。トイレを洗面脱衣室と一体にしたことは、子ども室にたっぷりの広さを確保することにもつながっている。

「最初は北側に水回りを配置するプランもあったんですが、南側に移動してもらいました。家族みんなが使う場所だから、気持ちが良いところにしたくて。でもここだけじゃなく、小上がりで寝転がっているのも、リビングのソファに座るのも、バルコニーも庭も、どこにいても気持ちが良い。居場所がたくさんある家です」(ご主人)

この家で「私」を生き直す。
素の自分のままでいられる場所

家は私のアイデンティティ。家は私そのもの。そんなふうに言える家で暮らすことは、どれほどの幸せだろうか。ただし、その幸せを手に入れるためには、「私」を深く知ることが重要だ。または、それを探究し続けようという姿勢。ゆっくりと長い時間をかけて自分に向き合い、「本当の自分のままでいられる場所」を見つけたKさんの家づくりは、「自分らしい家をつくる」ことの本質を問いかけてくれる。

『私は将来、大きな家に住んで、庭で畑をやりたいです』。Kさんが子どもの頃、タイムカプセルに入れた手紙に書いたのは、そんな夢だった。40代のKさんが家を建てたのは、山の緑と空が見える高台の住宅地。季節によって彩りを変えるさまざまな草木が植えられた庭には、燦々と陽が降り注いでいる。この家は、Kさんにとって二度目の家づくりだった。

「結婚して、初めて家をつくったとき、私はそれにお金もエネルギーも、すべてを注ぎ込みました。大きな家で、広い庭もあって、薪ストーブがあって、オーダーした家具を並べて、台所道具もさまざま揃えて。すごく素敵な家でした。建築家が細部までこだわって設計してくれた家はよくできていて、大事にしながら暮らしていました。3人の子どもを育てながら忙しく働き、満たされているはずでした。でもずっと、“何かが違う”という違和感がありました」

当時について、「対外的な絵面を整えることばかりに意識がいっていて、本当の自分に向き合うということができていなかったんだと思います」と振り返るKさん。幼い頃からの夢だった『大きな家』での暮らしから子どもたちを連れて出奔し、この家をつくるまでのKさんの数年は、『自分らしい暮らし』を考える時間だった。前の家から半分の面積になった賃貸マンションで送った母子4人暮らしは、想定外の軽快さだったという。

「自分がどういうふうにしているのが好きなのかを、じっくりと知っていくことができました。狭い家でも全然大丈夫だったし、持ち物をコンパクトにすることも得意になっていました。以前から高知にある『沢田マンション』(※建築の専門家ではない夫婦がセルフビルドでつくった集合住宅)に住んでみたくて、子どもたちとそこにしばらく暮らしたこともありました。どんな家でも、コンビニのご飯でも、子どもたちと笑いながら過ごせたことで、“私はどこでも楽しく暮らせる”という自信がついていったんです」

そうした経験ののちに建てたこの家は延床約34坪の木造2階建てで、家族4人が暮らす家としては一般的なサイズだ。パーケットフローリング敷きのLDKは約15帖とややコンパクトだが、Kさん家族は家にいるとき、ほとんどの時間をLDKで過ごしているという。ヴィンテージの大きなダイニングテーブルで勉強をし、お菓子作りをし、リビングで楽器をしたり遊んだり。休日もほとんど出かけず、家で一緒に過ごしているという。

「私たち、旅行に行ってもずっと宿の部屋でくつろいでいるんです。そもそも、レジャーがあまり好きじゃなかったんですね。家でもいつもみんなでリビングに固まっているから、広い空間は必要ないなと思って。本当は、もう私は家をつくるつもりがなかったんです。きっかけは、娘が“自分の部屋が欲しい”と言い出したことでした。それで、気分転換のつもりで土地を見に行ったら、ここに出会ったんです。子どもたちは敷地の前の坂でスクーターで遊びたい、ここに建てたいと言うし、私も山が見えることとこの場所の空気感が気に入って。そうしたら急にやる気が湧いてきて、この土地を買っていました」

2階は北側に寄せて、家族それぞれの個室を4つ並べた。景色が開けた南側には廊下を配置。幅1.2mと幅に余裕を持たせた廊下は、一面に腰高の窓を設けた。布団を干したり、共有している本を置いたり、セカンドリビング的にくつろぐスペースとして使われている。

「個室を使うのは寝るときぐらいなのですが、私も含め、一人になれる場所も必要だと思って。服は家族みんなのぶんを1階のウォークインクローゼットにしまっていますが、そのほかの私物は個室に片付けるというルールで、共有スペースを家族みんなが心地よく使えるようにしています。一般的な家を考えたら、南側に個室という間取りになるのが普通だと思うんです。なので南側に廊下という提案にはびっくりしました。ここはとても贅沢な空間。このtoolboxのガーゼカーテンの光の透け具合もお気に入りで、夜に帰宅したとき、カーテンから光が漏れる家の姿を見ては、“良い家だなぁ”と感慨にふけっています」

傾斜地に建つ家は、1階からも山と空が見える。庭側には、屋根と囲いを付けた4.5帖ほどのテラスをつくった。半屋外的な空間は、リビングの延長のような場所になっている。傘を干したり野菜を置くなど、家事室的にも使っているそうだ。テラスの横にあるのは居室から区切られた完全防音の音楽室で、近隣を気にせず思い立ったときにピアノが弾けるこの部屋の存在も、コンパクトにまとまった住まいでの暮らしにゆとりを与えている。

「音楽室は、最初は普通のつくりにして、アップライトピアノを置きつつみんなの趣味室として使おうと思っていました。でも当時、ストレートデザインラボラトリーのお仕事が詰まっていて、我が家の設計を具体的にスタートするまで半年ほど時間が空いたんです。その間に、“やっぱりグランドピアノを置こう!”と思い至って。設計が本格化する前に、家について考える時間を充分に得られたことは、私にとっては幸いでした」

最初の家づくりでの経験から、今回は「自分の希望を、素直に遠慮せず言える相手に設計を依頼したい」と思っていたKさん。当初は別の設計事務所と家づくりを進めていたが、Kさんのやりたいことと建築家のやりたいことにズレを感じ始めたところで、建築家側から「私じゃなくてもいいのではないでしょうか」と助言され、計画を白紙に戻すことに。意気消沈したものの、家づくりの参考事例や建材パーツを探す中で見かけたストレートデザインラボラトリーを思い出し、「逆にこれは好機だ」と即座に連絡したという。

「私好みのパーツや素材を使ってくれそう、と思ったんです。そういうものは、建築家が決めるもの、という思い込みがあったんですよね。ストレートデザインラボラトリーなら、特別リクエストしなくても私の好きなものが使われた家ができそうだと思ったんです。実際は、パーツも素材も色も、自分の希望を反映できたわけですが。ストレートデザインラボラトリーの設計する家は、家によって顔が違うんです。それぞれの住まい手ごとの家をつくっていると感じました。今度こそ、“私の家”がつくれるんじゃないかと思ったんです」

設計スタートを待つあいだ、Kさんは再度、“私の家”を熟考。海外製のガスオーブン付きコンロや照明器具を入手したり、当時住んでいた家での暮らしで不便だと感じることを検証したり、愛用している家具や道具を活用できるベストな形を検討したり。設計開始後は、そうしてKさんが研究し尽くした細かな暮らしのディテールを図面に落とし込んでいった。中でもキッチンは、Kさんの理想を詰め込んだ場所だ。

「間取りはプロに任せるところだと思うんです。それよりも大事にしたのは、ディテールでした。どんなパーツや素材を使うのか、暮らしの道具をどこに置くのか、どう使うのか。そういったことを反映していくことで、“私の家”になる。キッチンは特にこだわったところで、建築家の阿部勤さんの自邸を参考にして手前にバーをつけたり、自分の身長に合わせて出窓の高さや奥行きを決めたり、スポンジを吊せるように水切り棚を付けたり、食器棚の位置やゴミ箱を置くスペースのサイズを決めたり…。見た目の好みだけでなく、自分に合う使い勝手も叶えたかったし、それを考えている時間はものすごく楽しいものでした」

空間と持ち物の色合わせにもこだわったというKさん。Louis Poulsenのランプのオレンジと、ミントグリーンのヴィンテージランプ、STAUBの鍋の色、レードルの赤、ダークネイビーで塗装した階段という、ダイニングキッチンを眺めたときの風景は、特にお気に入りだという。壁の色は、手持ちのSTANDARD TRADEの家具やヴィンテージ家具に似合いつつ、温かみも感じる黄色味がかった白をセレクト。パステルブルーにグレーをライン状に入れたタイルで仕上げた洗面室と、パステルイエローのタイルを貼った浴室は、ほのかに昭和レトロを感じさせる。

「古いものというか、“定番”と呼べるようなものが好きなんです。時代が変わってもその良さが変わらないもの。あとは、見た目だけでなく使い勝手もきちんと良いもの。この家も、余計な装飾や凸凹がなくて、掃除しやすいのが良いです。家も道具も、きれいにしやすい形の方が気持ちがいい」

Kさんの一日は、朝4時から始まる。洗濯機を回し、浴室とトイレを掃除して、キッチンを拭き上げ、ガス乾燥機に洗濯物を入れる。そして近所の山へ散歩へ出かけ、家に戻ったら庭の手入れをし、乾いた洗濯物を隣のウォークインクローゼットに片付け、子どもたちの朝ごはんの定番だというマフィンを作る。夜も、仕事から帰ったら寝る寸前まで家の掃除や片付けをして、「今日もやりきった」という満ち足りた気持ちで眠りにつく。そんなルーチンをこなしたり、ルーチンの中で新しいことを発見する瞬間が、心地よいのだという。

「道具というものは、手入れをしながら使うほど、整っていくと思うんです。道具も、庭も、家も。手をかけて大事にするほど輝く気がするし、そうしたものに囲まれていると自分も元気が出てきます。この家は、まさに私の分身。家に手をかけることは、自分自身を大事にすることと同じだと思うんです。今はもう絵面ではなく、素の自分でいられる。この家を建てるのと一緒に、私も自分の生き直しをしたのだと思います」

5人家族の未来をおおらかに受け入れる
大きな土間があるワンルームのような一戸建て

埼玉県さいたま市の古くからの住宅地に建つ「浦和ハウス」。この家に住むのはSさんご夫妻と、15歳の長男、4歳の次男、3歳の三男の3兄弟。家族5人が暮らすためのマイホームづくりでSさんご夫妻が求めたのは、今後変わり続けていく家族の暮らしに応える自由度のある空間だった。

ウッドデッキを通ってアプローチする玄関。引き戸を開けて中に入ると、広がるのは大きな土間空間だ。モルタルの床は家の奥まで続き、ウッドデッキ側に設けた掃き出し窓が取り込む外の景色や、階段の吹き抜けから落ちる光と相まって、屋外のような開放感がある場所になっている。

「長男が小学生の頃、お友達を連れて帰って来ることが多かったんです。次男と三男もいずれ小学生になるので、玄関を入ってすぐに広い場所があったら、気軽にお友達を連れて来れるんじゃないかと思って。この辺りは、以前は大きな家だったところを2軒や3軒分に分けた土地に建つ家が多いんですが、運良く間口が広い土地に出会えた。家の中も、外に対しても開かれた、おおらかな家にしたかったんです」(奥様)

玄関を入ってすぐ、土間の右横に広がるパイン床のスペースは、目下のところキッズスペース。その隣には現在、長男が使っている個室があるが、長男の「部屋を閉じたくない」という意向もあり、壁の上部は欄間状にして声や気配が届くつくりになっている。キッズスペースは将来、次男と三男の部屋として使うことを想定しているが、壁は立てずに家具で仕切るつもりだと言う。

「子供部屋はひとつしかつくりませんでした。長男と下の子たちの年齢が離れていて、個室が必要になる時期が違うので、フレキシブルに使える場にしておきたいと思って。将来、私たちの親と同居する可能性もあるし、私たち自身が高齢になったら1階で生活する可能性もあります。家をつくる時って、どうしても今の家族の姿に目がいきがちですが、子供はすぐ育つもの。今の時点で空間の使い方を決め込んでしまうよりも、後から使い方を変えられる自由度がある空間にしたいというのが、当初からの希望でした」(奥様)

玄関の外に設けたウッドデッキも、家族の暮らしの変化に対応するための要素。現在は自動車を所有していないが、もし将来家族の誰かが車を持ったときには、ウッドデッキを撤去すれば駐車スペースが確保できる。

「庭にすることも考えましたが、東向きであまり日当たりが良くないことと、家のどこかにウッドデッキを取り入れたかったこともあって、こうしました。子供たちが土間からそのままウッドデッキに出て遊んでいたりして、外のようにも中のようにも使える場所として重宝しています。目の前の通りは車の交通量が多いので、通りとの緩衝帯の役割も兼ねる場所になってくれました」(ご主人)

玄関から土間でひと続きになったサニタリーも、「自由度のある空間」を求めた結果だ。Sさんご一家はもともとシャワー派ということもあり、壁で囲ったシャワーブースと洗濯機ブースをつくり、洗面スペースはオープンに。浴槽は脚付きの置き型を選び、脱衣所を兼ねた空間としてシャワーカーテンで仕切っている。天井にはハンガーパイプが付いており、入浴時や洗顔時にはタオルを掛けたり、室内干し場所としても使える、多機能な空間だ。

「湯船には時々浸かれればいいし、だったら浴室として閉じてしまうよりも、使い方が広がる場所になるといいかなと思って。夏の暑い日はプール感覚で使ったりしています。洗面スペースは隣に掃き出し窓もあって開放的。ここで顔を洗うのはとても気持ちがいいし、洗濯物の下洗いなどの作業もしやすいんです」(奥様)

階段の吹き抜けで1階とつながる2階も、和室の引き戸を開ければ全体が一体になる空間。完全に閉じられているスペースがほとんどない、家全体がワンルームのような住まいだが、設計初期のプランは今よりも家族個々人のプライベート空間が重視された内容だった。しかし、Sさんご夫妻の「もっとオープンな空間にしたい」という意向から、試行錯誤を重ねて現在のプランにたどり着いたという。

「当初から導入したいと思っていた薪ストーブは、この家に最適でした。冬は階段の吹き抜けを通じて暖かい空気が回って、2階もロフトも家中が暖かい。薪ストーブでピザを焼いたり鍋をやったり。冬は1階がリビングダイニング状態になります」(ご主人)

2階のキッチンは「ダイニングの自由度が少なくなる」という理由から壁付け型に。対面型にすると、レンジフードや吊棚によって三角天井の抜け感が損なわれてしまうということも理由だった。造作のカウンター収納は床に固定しておらず、空間の使い方に合わせて動かすことができる。小さな子供がいる生活だが、子供たちが家のどこにいてもその様子が把握できる空間なので、対面型でなくとも不便はないそうだ。

「直径が150cmあるダイニングテーブルは、campの大原温さんにオーダーしたもの。ストレートデザインラボラトリーの東端さんに“リビングの家具や収納家具はなくても生活できるけど、食事をするテーブルは絶対に必要なもの”と言われて、近所に住む親族と一緒に食事をすることも多いので、天板の広さが足りなくなることがないよう、大きなサイズで作ってもらいました」(奥様)

現在、夫婦と幼い兄弟たちは、リビング横の和室が寝床。起床時は押入れに寝具を片付け、和室もリビングの一部として使っている。和室に合わせて低めに設けた出窓は、「ムーミン」好きな長男のリクエストを取り入れた場所。ベンチになったり、棚になったり、テーブルになったりと、次男と三男の遊び場としても活躍している。

「ベッドへの憧れはありましたが、ベッドを置くと、寝室としてしか使えない場所になってしまうから。和室はフレキシブルに使えるのでいいですね。ソファはデンマークの建築家、フィン・ユールの自邸のベンチソファへの憧れがあって、そのイメージでcampの大原さんにデザインしてもらいました。大きくてゆったりしていて、家族のお気に入りのソファです」(奥様)

物の露出がほとんどない空間だが、それを可能にしているのは、要所要所にしっかりボリュームを確保して設けた収納スペース。家族の衣服はサニタリー横のウォークインクローゼットに、調理器具や食品ストックは冷蔵庫と共にキッチン横のパントリーに、本や漫画はロフトに収納。各居室に細々と収納を造作すると、収納によってその場所の使い方が制限されてしまうが、何もない壁面やフロアを多く残すことで、自由な空間の使い方を可能にした。

「実は整理収納が苦手なんです。服を畳むのも得意じゃないし、家族それぞれの物を仕分けして、それぞれの場所に片付けるのは大変。サニタリー横のウォークインクローゼットは、サニタリーで洗って干して、乾いたらそのままハンガーパイプに戻したり収納ボックスに入れればいいので楽ちん。壁面やフロアに余裕があるので、今後気に入る家具に出会ったら、それをレイアウトしていくという楽しみも生まれました」(奥様)

徹底して「空間の自由度」にこだわってプランニングされた「浦和ハウス」。長く住む家だからこそ、暮らしの中で変り続けるもの、変わらずに必要なものをしっかり見極める。「変わること」をポジティブに受け止めるおおらかな空間は、家族それぞれの生き方への考えも自由にするようだ。

「この家には、住みながらつくっていける余地がたくさんある。下の子供たちがもう少し大きくなったら、1階を仕事場にして家で働くこともできるかも。子供たちが望めば、ロフトを子供部屋にする可能性もありますね。夫は自分の部屋にしたいと考えているかも。いろんな可能性を考えながら暮らせるのが、楽しいです」(奥様)

– 10 years later –
暮らしが変われば求める豊かさも変わるから。
“工夫すること”を楽しみ続ける住まい

子供の成長や巣立ち、働き方や趣味嗜好の変化など、「暮らし」は変わり続けるもの。一方、「暮らし」がどう変化しても、「豊かに暮らしたい」という思いは人の心に常にあるものだろう。庫本知典さんと有基子さんご夫妻、長女と長男の4人家族が暮らす「宇都宮ハウス」が建ったのは2009年。当時はまだ幼かった子供たちも、今では高校1年生と小学5年生だ。「自分たちで工夫しながら住みたいから、ちょっと足りないぐらいの家が欲しかった」と話す庫本さんご家族の、暮らし始めて10年目の住まいを訪ねた。

「10年住んでも、“あそこをこうしてみたい”、“こんなことしてみたい”っていう思いが次々と出てくる。以前に比べたらインテリア雑誌や住宅の雑誌は見なくなったけれど、それでも暮らしていると、そういう欲求が出てくるんです。子供に手がかからなくなったら、少しずつじっくり手を加えていこうと思っていたんですが、今度は習い事やスポーツ活動に忙しい。“家に手をかける”というのは、強い意志を持って臨まないとなかなかできないものなんだなというのが、10年住んで学んだことです(笑)」

有基子さんはそう話すが、ご夫妻が植えた草花が生い茂る庭、バジルやセージ、トマトが育つ家庭菜園、表札の位置には魚のオブジェが飾られていたり、ブリキのバケツが郵便物入れとして使われていたりと、外回りを見ただけでも、“家に手をかけながら暮らす”という庫本さんご家族のスタイルが感じられる。

「アトリエは、いつか子育てや仕事が落ち着いたら、家で陶芸をやりたくてつくった場所。今は、応接間的に使うことが多いですね。プロジェクターで壁に映画を映して家族みんなで観たり、大人の飲み会をここでしたりしています。キッチンと玄関土間のあいだにつくった小窓がお茶や料理を出すのに便利で、重宝しています」

アトリエの棚にはお気に入りの器や雑貨が飾られ、正面の壁にはつい最近、佐々木美穂さんのイラストを飾った。有基子さんが夢である陶芸をここで始める日はもうしばらく先のようだが、家族のエクストラスペースとして使いながら、いつかの日の姿を想像して楽しんでいるそうだ。アトリエとLDKは、大谷石が敷かれた玄関土間で区切られており、行き来する際は下足を履くため、有基子さんは「離れみたいな感覚で、気持ちが切り替わる」と話す。

「ダイニングもお気に入りの場所。食卓からアオダモの樹が見えるようにしたかったんです。この吹き抜けも好きです。明るくて気持ちがいいし、上下階で声が届くのもいい。このあたりの戸建ての規模としては、うちは延床面積が100㎡ちょっとで小さい方なんですが、庭に面したリビングの窓や吹き抜けのおかげで、広く感じます」

階段の手すりに張られたカラフルなロープには、ポストカードや子供たちの学校やスポーツ活動からのお便りが吊るされている。これは子供たちが小さかった頃、転落防止ネットを張っていた時に生まれたアイデア。ダイニングとリビングのあいだにはIKEAのカーテンレールを取り付け、客人が泊まる時は布をかけて仕切れるようにしたり、玄関からLDKへの入口にハンガーラックをDIYするなど、「宇都宮ハウス」には暮らしの中から生まれたアイデアによるカスタマイズが各所に見られる。

「ストレートデザインラボラトリーへ設計を依頼したのは、学生時代からの友人だったということもあるけれど、私たちが望む暮らし方を受け止める家をつくってくれると感じたから。実際、この家は、何か手を加えようと思った時に加えやすい。おおらかさと余裕が感じられる家だなと思っています」

階段を上ると10帖ほどのフリースペースが広がる。これまでは子供の遊び場や家族共用のスタディコーナーとして使ってきたが、高校生になった長女が最近、スペースの一角にベッドとデスクを置き、自身の部屋にした。間仕切りに使っているのはカラフルなファブリック。庫本さんご夫妻はそろそろ長男の部屋もと考えているが、壁をつくって仕切るつもりはないという。

「あと数年もすれば、子供たちは独立して家を出て行く。寂しいけれど、もともとそういうものだとは思っていたので、子供部屋はしっかりつくるのではなくて、そういう風にも使える場所をつくってもらいました。将来は私の部屋になるかもしれないし、夫が使いたいと言うかもしれないですね。収納も、各所にたくさん造り付け収納をつくるより、どうとでも使えるスペースを広く確保することを優先しました」

収納は、玄関の下足入れとキッチン横のパントリー、寝室のクローゼットという、必ず収納が必要になる場所と、家族みんなが使える収納として、2階のフリースペースと寝室をつなぐ通路にオープン棚と引き戸付きの収納をつくった。フリースペースやリビングダイニングには収納を造作せず、庫本さんご夫妻が見つけてきた古道具やDIYした家具を駆使して、部屋を仕切ったりものを収めている。

「リビングとダイニングのあいだに置いているのは、古道具屋で見つけたキャビネットに、古い椅子の脚を自分でドッキングしたもの。置く場所を変えながら、ずっと使い続けています。鉄脚のダイニングテーブルはオーダーして作ってもらったもので、この家を建てる前から使っていました。最近、もともとの天板の上に古道具屋で見つけた古材の板を載せてみたんですが、反っていて家族に不評なので、また変えるかも」

変化する家族の暮らしに合わせてであったり、古道具屋での出会いがきっかけであったり。「宇都宮ハウス」のカスタマイズは家が建ち10年が経った今も続き、この先も続いていくのだろう。そんな変化を受け入れるために各居室はシンプルにつくられているが、一方で、建物の構造や性能など、簡単に手を加えることができない部分の計画は念入りに行われた。階段のそばに立つのは、「国立ハウス」にも使われているソーラーシステム「そよ風」のダクト。太陽熱と夜間の放射冷却といった自然のエネルギーを利用して室内の温熱環境を整えるもので、自然エネルギーの利用に関心が高かった庫本さんご夫妻の意向もあり採用された。

「夏の夜は床下から涼風が送られてくるし、冬も夜、家に帰ってくると暖かい。ほぼワンルームのような家ですが、断熱をしっかり入れてもらったので、暑さや寒さに不満を感じたことはありません。機能的なところと言えば、玄関とキッチンと水回りと階段が近接してまとまっているのがいい。子育てしながら働く日々は忙しいけれど、この生活動線の便利さに助けられています」

黒目地の白い100角タイル壁、ステンレス天板のキッチンは、家事アドバイザーの石黒智子さんの自宅キッチンを参考にしたと有基子さん。ダイニング側に作った収納カウンターの天板は手の跡がつきにくいメラミン化粧板が使われており、10年使われてきたとは思えないほど、古びることなく維持されている。

「出入りが多いキッチンのフローリングは、数年前にオイルを上塗りしましたが、ほかの部屋の床は建てた当時のまま。本当はやるべきなんでしょうけど(笑)。無垢の木とか大谷石とか、自然の素材は経年変化が味になるからいいですね。キッチンや浴室のタイルは、拭くだけで手入れができて劣化しないところが気に入っています」

築10年が建った現時点で、キッチンの床以外に大きくメンテナンスをしたのは2階のデッキ。東日本大震災が原因で根太がずれて水はけが悪くなってしまい、腐っていた部分の根太だけを取り替え、シルバーグレーに経年変化していたデッキ材はそのまま使っている。積み重ねてきた時間が家に映し出されていくことも、庫本さんご夫妻が望んでいた住まいの姿だ。

「小さい頃から部屋の模様替えをするのが大好きで、いろいろな物をつくるのも好きでした。家を建てる前は古い家を借りて、自分たちでペイントしていました。でも、作ることはたしかに好きだけど、作ること自体が目的なわけではないんです。“ここにこんなものがあったら便利そう”とか、“これをこんなふうに使えないかな”とか、“あそこに絵を飾ったら素敵に見えそう”とか、暮らしをもっと豊かにするための工夫を考えるのが、楽しいんです」

変わりゆく暮らしと共に求める豊かさも変わっていくからこそ望んだ、“ちょっと足りないぐらいの家”。この家はこの先も、庫本さん家族の人生に寄り添いながら変わっていくのだろう。

選んだのは「買う」のではなく「つくる」方法
“家族4人が住める最低限の要素”でつくった家

「西東京ハウス」が建つのは、短冊状に区切られた敷地に間口の揃った家々が並ぶ、よくある住宅地。敷地は約17.5坪、建築面積は約10.5坪の木造2階建てで、ロフトを含めた居住スペースの面積は約22坪の木造2階建て。今の時世に東京都下で建てる新築一戸建てとしては、標準的なボリュームの住宅といえるだろう。

1階にカーポートと玄関という構成、斜線制限などの法規から導かれた形状とボリュームは隣家と変わりないが、スチールで造作したバルコニーの手摺や、軒下いっぱいまで高さがある掃き出し窓、水平に伸びる庇や横貼りしたサイディングが、間口2間という狭さを感じさせない、おおらかな雰囲気をファサードに醸し出している。

この家に暮らすのは、市川圭さんと亜矢子さんご夫妻、長男と長女の4人家族だ。市川さんご夫妻が家を建てようと思ったきっかけは、10年以上暮らしてきた賃貸アパートが古くなり、ストレスを感じるようになっていたこと。そのまま賃貸に暮らし続けるよりも、ストレスを感じない家に暮らしたいと思い、住宅ローンを組む上での年齢的なタイミングも考え、マイホーム購入を決意。建売住宅やハウスメーカーのモデルハウスを見学し始めたところ、亜矢子さんのご友人からおすすめされたのが、ストレートデザインラボラトリーだったそうだ。

「ちょうど、ストレートデザインラボラトリーが設計した『HOMEBSE』の内覧会をやっていたので、行ってみたんです。家のテイストが好みだったこともですが、設計士の東端さんがとても話しやすい方だったことも、設計をお願いしようと思った大きな理由でした。“丸っぽい車よりも、四角い車が好きなんです”と伝えたことを覚えています。自分が好きなものをわかってくれそうだと感じたんです」(亜矢子さん)

「設計に望んだのは、広くて開放感がある明るいLDK、壁付けのキッチン、土間を取り入れたいということ。個室は小さくていい、なくてもいいぐらい、と伝えました。予算がたくさんあるわけではなかったし、“家族4人が住める最低限の要素があればいい”と思っていました」(亜矢子さん)

2階はワンフロアが丸々LDK。トップライトと東側のバルコニーに面した掃き出し窓、西側のキッチンの窓、南側の階段ホールに面した窓から光が注ぎ、北側の白壁に反射してフロア全体を明るく照らしている。「前の家でもカーテンは付けず、窓や戸はほとんど開けっ放しで暮らしていました」と亜矢子さん。南側には隣家の窓が面していたが、窓が小さくカーテンも付けていたため、「自然の光と風をたくさん取り込みたい」という希望を優先した。

キッチンは、「料理に集中したい」という亜矢子さんの希望から、対面型ではなく壁付け型に。正面に設けた窓は隣家と隣家の合間から空が見え、明るく気持ちがいい。キッチン本体は、ステンレスの天板にシンクとコンロを付けただけの仕様で、フルオープンにした下部は自由に使えるようになっている。キッチンの奥にはリビングダイニングから死角になるように壁を作り、家電などを置くカウンターとオープンな食器棚を造作した。

「収納をほとんど作らなかったのは建築費を抑える目的もありましたが、前の家が狭かったこともあってあまり物を持っていなくて、必要性を感じなかったんです。でも、キッチンの奥の収納は作ってもらってすごく良かった。LDKで散らかりがちな要素をぱっとここに隠したり、とにかく何でもここに詰め込んでしまえる(笑)。住む人の生活や気持ちを汲んだ設計に感動しました」(亜矢子さん)

1階は、玄関の下足スペースだけでなく、通路も洗面脱衣所も寝室も、すべてモルタル仕上げの土間床にした。土間床に置かれたベンチや壁には草花が飾られ、ちょっとしたギャラリーのような場所になっている。外と中の境界が曖昧な土間床は、蹴込のない階段と相まって、玄関ホールを広く感じさせる効果も生んでいる。

「うちの家族は家の中では常に裸足。土間床を踏んだ時の、冷たくて固い足触りが気持ちいいんです。玄関はお気に入りの場所ですね。階段に座って、玄関越しに外を眺めるのが好きです。玄関アプローチの植栽は、ミモザの木とアジサイとオオデマリの苗をホームセンターで買ってきて、自分で植えました」(亜矢子さん)

寝室、トイレ、洗面脱衣室、浴室といった生活機能は1階に集約。寝室はシングルベット2つと間口1間ちょっとのクローゼットが収まる最低限のサイズだ。窓にはカーテン代わりの目隠しとして、磨りガラス調のシートを貼っている。洗面は、キッチンと同じ白い100角タイルを馬貼りにして、実験用流しとクラシカルなデザインの水栓をコーディネート。国立の古道具店「LET EM IN」で売られていたというミラーが、その設えを引き立てている。

「個室はなくてもいいくらいと伝えましたが、とはいえ子供が2人いるので、2階のロフトを子供部屋として使える空間にしてもらいました。それぞれシングルベッドがギリギリで置ける3帖ほどのサイズですが、子供たちはリビングダイニングで過ごすことがほとんどで、小ささはあまり気にしていないみたいです」(亜矢子さん)

2つの子供部屋をつなぐ部分には、子供たちの勉強スペースとしてカウンターデスクを造作。現在は、音楽が趣味である圭さんのDJセットやCD、レコードが置かれている。圭さんは、将来子供たちが独立したら、このロフトを自分の趣味空間にすることを考えて楽しんでいるそうだ。

「リビングのピアノは最初から置く予定だったものではなくて、ここに住み始めてから、僕の思いつきで引き取ってきたんです。“ピアノがある生活っていいかも”と思って。この家を建てたら、いろんな暮らし方の想像ができるようになりました」(圭さん)

“家族4人が住むための最低限の要素があればいい”という、慎ましい要望から始まった市川さん一家の家づくり。たしかに寝室も子供部屋もコンパクトで、外装も内装も簡素な要素で構成されているが、それは構造や断熱など、長く快適に暮らすための性能の確保に重点を置いた結果。壁や天井の仕上げはラワン合板の塗装仕上げで、木の質感と表情を感じられる。幅木と廻縁のない床と天井の入隅の納まりや、壁の端部や窓枠に設えた無垢材、造作したラワン合板のドア、金物や照明器具の色味や素材感の統一、LDKの床は無垢のオークフローリングにするなど、細かな操作の積み重ねで、質量を感じる空間をつくり出した。

「設計事務所と家を建てるという方法は、家や暮らしへのこだわりが強い人が選ぶ方法で、お金ももっと掛かると思っていたんですよね。でも実際にやってみたら、建売住宅を買うのと変わらない金額で、内容は全然違う家を建てることができました」(圭さん)

TRUCK FURNITUREのソファとダイニングテーブルは、亜矢子さんが“いつか欲しい”と思っていたもの。受注生産品で家の完成より先にオーダーする必要があったため、設計の際は、ソファとダイニングテーブルのサイズに合わせて柱の位置などを検討した。800ミリ×1800ミリある大きなダイニングテーブルは子供たちの勉強スペースにもなり、休日は遊びに来た友人家族と大勢で食事を囲むこともある。亜矢子さんはこのソファに体を預けながらLDKを眺めるのが好きだと話し、圭さんはソファで寝てしまったときに、トップライトから落ちる光で目覚めるのが気持ちいいと話す。

「妻は、TRUCK FURNITUREのような家具が好きかと思えば、エキゾチックな雑貨も好きだし、実はキャラクターものも好きだったりするので、家づくりをする前は、“どんなテイストの家なら合うんだろう”と思っていたんです。この家は、そんな妻の多趣味も、僕の思いつきも受け入れてくれる。“買う家”ではなくて、ストレートデザインラボラトリーと家をつくることを選んで、本当に良かったと感じています」(圭さん)

暮らしながら仕立てていく、
何もない空間と大きな軒がある家

夏の晴れた日。じりじりと日差しが照りつける庭を眺めながら、軒がつくる影の中でスイカを食べる。雨の降る日。ぽつぽつと軒を打つ雨音を聞きながら、軒先から垂れる滴を眺める。軒下にはそんな、豊かな時間が流れていた。狭い土地に建てられることの多い都市部の住宅では、軒を見かけることはずいぶんと少なくなったが、『あきる野ハウス』は、建坪21坪の2階建てという郊外住宅としては小さなサイズながら、幅三間(約5.4m)、奥行き一間(約1.8m)もある大きな軒が特徴的な住宅だ。

この家に暮らすのは、武田将大さんと千夏さん夫婦、長女の美月ちゃんと長男の大和くんの4人家族。将大さんのご実家を武田さんご家族の住まいに建て替えることになり、千夏さんがストレートデザインラボラトリーにリクエストしたのは「軒」だった。

「お気に入りの軒下は京都の円通寺。軒下から見る庭の風景も含めて、とても好きな場所です。軒下って、なんだか落ち着くんです。縁側も好きですね。建て替え前に住んでいた夫の実家にも深い軒と縁側があって、そこもお気に入りの場所でした」(千夏さん)

将大さんのご実家は、昔ながらの農家の造りをした古い家だった。部屋数は多かったが日常的に使う部屋は限られており、そうした経験から武田さんご夫妻が望んだのは「ワンルームのような平屋」。設計中に長女を妊娠していることがわかり、スペースの必要性から2階建てへと変更したが、ワンルーム的な暮らしのスタイルは念頭に置いたまま、LDKや水回り、寝室といった主要機能は1階に集約。2階には子ども室8畳と、“離れ”のようなご主人の趣味室として約3畳の和室、そして納戸を設けた。

「設計の依頼先やどんな家にするかについて、主に決めたのは妻。僕も料理や掃除をしますが、うちでは妻が家事育児の主導権を持っているので、妻が決めた方が暮らしやすい家になるだろうと思って。僕からの希望は、月を見ながら入浴できるよう浴室は南側にしたいということと、小さくていいから自分の部屋が欲しいということでした(笑)」(将大さん)

ストレートデザインラボラトリーが設計した『国立ハウス』のキッチンが気に入り、設計を依頼することを決めたという千夏さん。『国立ハウス』同様に、キッチンは壁付けを選択した。ステンレスの天板とシンク、フレームのみというシンプルなキッチンに、造作した収納は水切り棚とラワン合板で作ったコンパクトな食器棚だけ。キッチン横にパントリーを設けることも提案されたそうだが、千夏さんの希望でなくしてもらったという。

確かにこの家には、収納らしい収納がほとんど造作されていない。洗面室も、収納がない壁付けタイプの洗面器で、収納といえばミラーキャビネットと歯ブラシ置き場にしている棚ぐらい。家族の衣服は1階寝室の一面に、ご主人の趣味のグッズは2階和室の収納に、靴や庭道具はエントランスの収納にと、要所要所にコンパクトにまとめられている。そもそも、物が少ない。生活に必要なものは揃っているが、余計な物がないのだ。

「整理整頓が好きというよりも、ものすごい面倒くさがりなんです(笑)。片付けるために収納をつくるというのが普通だと思うんですが、私の場合は、片付けたくないから収納をつくらない。物を置く場所をなくしておけば、物を増やそうと思いにくいですから。でも、まったく物を持たないわけではなく、例えば、色物はなるべく買わないとか、金属や陶器のものを選ぶとか、収納小物を揃えるとか、物を買うときにそうしたルールを課して、日常的に整理整頓をしなくても暮らしが整うように気をつけています」(千夏さん)

ルイス・カーンや中村好文の建築が好きで、学生時代はインテリアを学んでいたという千夏さん。家づくりが具体的になる前から、理想の住まいのイメージをノートに書き溜めていたが、「あくまで自分のイメージ用」(千夏さん)ということで、設計の打合せ時にはそのノートを出すことなく家づくりを進行。だが、玄関ドアを開けると庭へ視線が抜ける空間構成、通り土間になったエントランスなど、提案されたプランと千夏さんの理想の住まいのイメージが合致していたことに驚いたという。

「私が理想の住まいの参考にしていた家々は、キッチンも家具もきっちり作り込まれた、仕立て上げられた空間でした。でも私は、仕立ては自分でしたかった。ストレートデザインラボラトリーのつくる家々は仕立てられすぎていなくて、それも設計を依頼した理由でした。何もない空間にしたかった。何もなければ、どうとでもできますから。壁付けキッチンを選んだのも、カウンターキッチンよりも空間が広く使えるから。夫も大の字で寝転ぶことができるので気に入っているようです」(千夏さん)

家を仕立てる。千夏さんにとってこの家は、生地のような存在なのかもしれない。家具の配置を変えてみたり、部屋の使い方を変えてみたりして、自分たちにぴったりな形に仕立て上げていく。そうして出来上がっていく住まいは、武田さん家族の暮らしにしっくりと馴染んでいくのだろう。

武田さんご家族による“仕立て”の最初の作業は、塗装仕上げ。建築コストを抑える目的もあり、家の中の壁と天井はすべて、将大さんと千夏さんのご両親とが行った。

「僕は機械の調整や管理をする仕事をしていることもあって、ものすごく細かいんです。最初は妻のご両親にも手伝ってもらったんですが、塗りムラやはみ出しなどがあると、つい口を出したくなってしまう。良好な関係を保つために(笑)、以降は僕ひとりでやりました。実際やってみると、大変でしたね。でも、自分でやったから、多少出来が悪いことも許容することができました」(将大さん)

そう将大さんは言うが、その塗装クオリティはなかなかのもの。素人目にはプロの仕事と遜色がない出来栄えだ。今後は、子どもが大きくなったら2階の子ども室を有効ボードの壁で仕切ったり、浴室の外に木で囲いをつけることなどを計画しているという。

「下の子も生まれて暮らしが落ち着いてきたので、そろそろ庭づくりを本格的にしようと思って。花壇を作ったり、ハーブを育てたり。テラスにもテーブルやイスを置いて、軒下で過ごす時間をもっと増やしていきたいと思っています」(千夏さん)

窓の外も、家の中も。
「眺めのいい家」に住む

『葛西ハウス』に暮らすのは、Mさんご夫妻と長男、そして生まれたばかりの長女の4人家族。奥様のご実家が建つ土地の一部を譲り受け、Mさんご家族の家を新築した。いわゆる敷地内別居で、両家の境界に塀などは設けず、道路からのアプローチと前庭を共有している。

小さな川が流れる緑道沿いに建つ家は、いぶし銀色をしたガルバリウム鋼板の外壁に木々の緑が映える。外観を見ると、決して窓が大きかったり、窓を多く設けているというわけではない。敷地は旗竿形で隣にご実家が建っていることもあり、道路側からの外観はむしろ閉鎖的だ。しかし家の中に一歩足を踏み入れると、そこには思いがけず開放的な眺めが広がっていた。

「長男が生まれたことを機に家を持つことを考え始めました。そんな中、妻のご両親から敷地の一部を使っていいよという提案をいただいて。夫婦共働きで、お互い勤務先は都内。栃木にある僕の実家の両親が『子育てしやすい環境のほうがいいよ』と言ってくれたこともあり、家を建てることにしたんです」(ご主人)

一方、学生時代は住居学を専攻し、卒業後は百貨店でインテリア部門を担当し続けているという奥様は、独身時代から「家づくりがしたい」と漠然と考えていたという。

「建築家との家づくりに憧れていました。でも、『この人』と決めて依頼ができるほどはっきりとしたイメージが自分たちの中になかったので、家づくりサポートサービスを利用したんです。コンサルタントの方から提案された設計事務所のうちの1社が、ストレートデザインラボラトリーでした。私たちの「理想の家のイメージ」をお伝えした上で、一緒に敷地を見に行きました。その後、ストレートデザインラボラトリーから送られてきたスケッチに、心を鷲掴みにされてしまったんです」(奥様)

スケッチに描かれていたのは、玄関を入った時に広がる、緑道と空へと目線が抜ける吹き抜けのホールのイメージ。そして、水平に展開する腰高窓から緑道の緑を眺める、リビングダイニングのイメージだ。ホールの右手には木枠のガラスパーティションが描かれており、パーティション越しにリビングダイニングを望む空間構成も外の景色の取り込み方も、ほとんどそのまま実現されている。

「ストレートデザインラボラトリーからの提案内容を受けて思ったことは、『背伸びしておらず住みやすそう』ということでした。自宅の設計を建築家に依頼することに対して、当初は分不相応なのではないかという気持ちを抱いていたので、自分たちの身の丈に合った内容の家が提案されたことにほっとした気持ちと、うれしさがありました」(奥様)

Mさんご夫妻が理想の家のイメージとして挙げたのは、フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの自邸。フィンランドを旅した際にアアルトの自邸を訪れたという奥様は、その家の“窓辺”のデザインに惹かれたという。日照時間の短い冬の季節が長く、建物の中で過ごす時間が多い風土のためか、自然光の採り入れ方と外の景色の取り込み方に特徴を持つ、アアルトの建築デザイン。その設計スタンスは「葛西ハウス」にも共通する。

緑道を行き来する人の目線を気にせずに眺めを堪能できるように、リビングダイニングの窓は腰高窓に。たっぷり30cm設けた窓台は通りとの適度な距離を生んでいるだけでなく、ただの「眺める窓」でなく、「過ごせる窓辺」をつくり出している。

「アアルトの自邸のほかにも、私たちの好きな要素をそこかしこに取り入れてもらいました。2階の格子窓は、代官山にあるファブリックブランド・coccaの外観がヒント。木枠のガラスパーティションはbillsを参考に、アンティーク風の塗装を施しています。壁の塗装には、マーガレット・ハウエルがショップカラーにしている、オイスターホワイトという色を採用してもらいました。それから、以前から持っていたアアルトのコートラックを食器棚として使えるように、キッチンの棚やタイルのバランスを考えてもらったりと、たくさんのリクエストを盛り込んでもらいました」(奥様)

キッチンの壁はクラシカルなテーパータイルで仕上げ、背面収納側とコンロ側で色違いに。洗面室の床には柄入りのタイルを使い、壁には白いボーダータイルをポイント使いしている。シンプルに整えたベースにヨーロピアンなテイストを彩りとして加えたインテリアデザインの中、ポイントになっているのが、ホールの壁に設えた大谷石だ。昔の住宅の外塀に多く用いられてきた大谷石のイメージと、モルタル仕上げの土間床、そして玄関を入って緑道まで視線が抜ける空間構成が相まって、外廊のような感覚を起こさせる。

「地元の特産である大谷石をどこかに取り入れてほしいとお願いしたんです。使う場所をさまざまシミュレーションしてもらって、最終的にホールの壁に採用することになりました。広い面積に使うし、妻好みのインテリアと折り合いがつくのか心配していましたが、思いのほかしっくりきていて驚きました。和室も僕からのリクエストで、壁は濃紺に塗装しました。市川崑監督の映画の、コントラストが強く暗部の多い映像世界が好きで、そのイメージから。非日常感を感じられる場にしたくて、茶室の潜り口のようにしてもらいました」(ご主人)

和室の壁はカラーワークスの塗料を使い、Mさんご家族がDIYで塗装をした。2階寝室のブルーの壁もDIYによるもので、こちらはFARROW&BALLの塗料。テイストはもちろん、色、素材、形、すべてを「暮らしやすさ」に照らし合わせながら入念に吟味して、夫婦それぞれの好みをバランス良く取り入れた空間からは、Mさんご夫妻の満足感と住まいへの愛着が感じ取れる。

「家は、服のように簡単に着替えることはできません。念願の家づくりだったので、“こんな風にしたい”“こんな素材も使ってみたい”と、自分でも収集がつかなくなってしまった場面があったのですが、ストレートデザインラボラトリーに、“お店と違って、家は長く過ごす場所であることを前提に内装を選んだほうが良い”という、住宅デザインならではの視点を与えてもらい、経年変化した時に味になる素材なのか、飽きのこない形なのかといったことを考えながら、家づくりに臨むことができました。末長く付き合っていきたい住まいです」(奥様)

窓から望む「外」の景色だけでなく、「家の中」の景色も心地良い、眺めの良い家。緑道の木々がもたらす季節の移ろいを感じながら年月を重ねていくのだろうこの家は、Mさんご家族の愛着とともに、その味わいを深めていきそうだ。

豊かさは暮らしの中で築き上げていくもの。
手作りで満たしていく、縁側のある平屋

縁側、土間、低い屋根、深い庇、軒下…。“懐かしさ”を感じる、住まいの風景。ほんのひと昔前までは、日本のそこかしこにあったのだろう。高層マンションやキューブ型の住宅が当たり前になった今でも、こうした風景に心が惹かれるのは、その空間がもたらしていた豊かさを、私たちのDNAが記憶しているからなのかもしれない。 

2階建てや3階建ての戸建てが建ち並ぶ郊外の住宅地で、そこだけぽっかりと空が開いていた。奔放に生い茂る草木の陰から覗く、低い切妻屋根の平屋。この家に暮らすのは、ご夫婦と小さなお子さんふたりのMさんご家族だ。

「私たちの暮らしには、2階は要らないなと思って」。そう話すご主人は平屋があるご実家に育ち、奥様とのご結婚後は、その離れの平屋に暮らしていた。古く小さな家だったが、住んでいくうちに平屋での暮らしが気に入り、お子さんの誕生をきっかけに建てることになった新居も、平屋にしたいと望んだのだという。

「ストレートデザインラボラトリーの東端さんには、“平屋”であることと、“縁側”もリクエストしました。実家には縁側もあって、よく近所の人がそこに腰掛けて、家族とお茶をしていました。そんな風景が日常にある家にしたかったんです。それから“土間”も、お願いしたもののひとつ。小平周辺にはまだ古い農家がいくつかあって、玄関を入ると、土仕事ができる土間があるんです。そうした私の住まいの原風景が、家づくりのベースになりました」(ご主人)

そうした“懐かしい風景”を散りばめてつくられた『小平ハウス』は、延床面積90平米弱に玄関、納戸、LDK、浴室、洗面室、家事室、子ども室、ロフト付きの主寝室という構成だ。玄関を入ると、ご主人のリクエストだった土間が広がる。玄関ドアは両開きで、開放すれば外の土間とひと続きになり、半屋外的な場所として使うことも可能だ。土間の一角には手洗いがあり、空間の用途を広げている。面白いのは、並列した各居室を貫く“縁側”。普通なら、居室と縁側の間には障子などの建具があるものだが、この家では“縁側”を仕切らず各居室の一部とすることで、居室同士をつなぐだけでなく、空間を窓外のデッキまで広げている。玄関からリビングに入った時の、まっすぐ奥まで見通す“縁側”の眺めは、ご主人のお気に入りだ。

庭に面した深い庇付きのデッキもまた、縁側的な空間。様々な草木が植えられた庭は季節ごとに色づき、縁側からの豊かな眺めをつくり出すのだろう。「ここはもともと実家の土地で、以前は母の花畑でした。ターシャ・テューダーのような、野の花に囲まれた生活に憧れますね。このデッキや縁側から庭を眺めるのが、とても気持ちいいんです。夏は親子で肩を並べてスイカを食べたり、秋はお月見団子を食べたりしたいですね」(ご主人)。

「もしも将来、家が手狭になったら、庭に小屋を建てても面白いかも」と話すご主人のご趣味は日曜大工。ダイニングや子ども室にある棚や寝室のデスクは、ご主人が手作りしたものだ。一方、奥様のご趣味はパン作りやお菓子作り。もの作り好きなMさんご夫妻が本質的に求めていたのは、暮らしに合わせてカスタマイズしていくことができる住まいだった。

「平屋をリクエストしたのも、シンプルに暮らすことができると思ったから。大き過ぎる家は、年を取って夫婦ふたり暮らしになったら持て余してしまう。平屋は水平移動だけで生活できるし、仕切りのない空間にすれば、いろんな使い方ができます。子ども室も、将来2部屋に分けて使う予定。最初に造り込んでしまうと、後からそれを作り直すのは大変ですよね。でも、シンプルな状態から付け足していくのは簡単。住みながら、その時その時に必要なものや場をつくりながら暮らしていく。私たちは、そんな暮らしがしたかったんです」(ご主人)

そんなMさんご夫妻の思いを象徴するのが、キッチンを計画する際のエピソードだ。当初は、流行りの対面型にするつもりだったというキッチン。「でも、そうするとレンジフードが空間の中央にぶら下がって、空間を“キッチン”に限定してしまう。LDKはいろんなことに使える場所にしたかったので、空間を隅から隅まで使える、壁付けキッチンを選択しました」と奥様。リビングで遊ぶ子どもたちの様子は振り向けばすぐにわかるし、声も届く。ちなみに、カウンター代わりに使っているのはアンティークの水屋で、空間の使い方を変えたい時は動かすことが可能だ。「子育てがひと段落したら、ここでパン作りの教室などを開けたらいいなと思ってます」という奥様のビジョンに配慮して、キッチンはいずれオーブンを設置できるようにも造作されている。

変化していく暮らしを受け止めるための工夫はほかにも。室内の壁仕上げは合板を白く塗装したもので、釘を打ったり、別の色で塗装したりがしやすい。作り付けの収納を最低限にしたのも、後から壁面に棚を造作したりできるようにという配慮からだ。ちなみに、収納はキッチンパントリーや納戸、主寝室のウォークインクローゼットなど、専用のスペースに集約されているが、窓の上に小物を置ける程度の幅がある板を巡らすなど、飾ることを楽しむための仕掛けも盛り込んでいる。

「私たち、持ちものがとても多いんです。それでいて、ものはしまうよりも出しておきたい性格。生活が見える空間のほうが心地がいいんです。ストレートデザインラボラトリーが設計した住宅はどれもシンプルで、自分たちの生活が馴染む家をつくってくれそうだなと感じたんです」(奥様)

そこにあったのは、背伸びをしない等身大の暮らし。この家に感じる懐かしさは、縁側や土間などの物質的要素によるものではなく、暮らしのものごとを手作りするMさんご家族のライフスタイルに、古き良き時代の暮らしが重なるからかもしれない。

「もともと平屋に住んでいたせいか、違和感なく普通に住めている」とご主人が話す通り、Mさんご家族の暮らしは、すっかりこの家に馴染んでいるように見える。しかし、「理想の住まいを100点とすると、今はまだ5点くらいですね」とご主人。「もちろん今の状態も気に入っていますよ(笑)。でも、住みながらもっともっと良くしたいんです。家が完成した時点では0点で、暮らしながら理想形までつくっていくイメージ。歳をとってから“ああ、やっぱりいい家だな”と思える家にしていきたいですね」(ご主人)