国立ハウス 2

このサイズが家族4人にちょうどいい。
延床面積22坪の「持て余さない家」

今の時代のファミリー世帯に「ちょうどいい家」とは、どのぐらいのサイズだろうか。個室にこもりっきりにならないようにという風潮や、家族それぞれがスマホやタブレットでパーソナルな時間を楽しめるようになったこともあり、個室は必ずしも広さが求められる場ではなくなってきている。また、家づくりをした先人たちの「子どもが独立して部屋が余っている」「家が広すぎて掃除や管理がしきれない」という声も聞かれるようになった。『国立ハウス2』は、そんな問いへのヒントを提示してくれる事例だ。

straight design lab | kunitachi house 2

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「広くて大きな家に魅力を感じなかったんです。夫の仕事の都合でアメリカに住んでいた時の家は、120㎡くらいありました。子どもたちはのびのびできていいけれど、すべてが遠い。お風呂もトイレも遠くて、キッチンも広すぎる。家具を置いても、ガランとしていていまいち決まらない。掃除をするのも大変でした。期間限定で住むなら広い家もいいけれど、だんだん歳をとっていくし、子どもたちが巣立ったあとのことを考えても、広すぎない家がいいと思ったんです」

切妻屋根が乗ったグレーの四角い箱に、バルコニーが差し込まれた外観。玄関アプローチは施主手配で植樹された西海岸テイストの植物が彩り、奥へ進むとスチールで造作されたインダストリーな玄関ドアが出迎える。この家に暮らすのは、40代のMさんご夫妻と、小学三年生の長女と小学一年生の長男の4人家族だ。国立の静かな住宅街に建てたマイホームの延床面積は約75㎡で、坪数に換算すると約22坪。首都圏の新築分譲一戸建ての平均延床面積99㎡、坪数でいうと約30坪(※)と比べるとずいぶんコンパクトだが、「私たちには、このぐらいがちょうどよかった」とMさんは話す。

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「ストレートデザインラボラトリーのホームページに載っている『西東京ハウス』の『“家族4人が住める最低限の要素”でつくった家』という記事を読んで共感して、ストレートデザインラボラトリーの東端さんに、私たちもそういう家が欲しいんです!とお話ししました。このプランを提案された時は、過剰なスペースがなくて私たちにぴったりだと思いました。当初の提案ではパントリーとワークスペースの間が仕切られていたのをつなげてもらい、ワークスペースをガラス入りの木製パーティションで仕切る形にしてもらいました」

1階と2階はそれぞれ約37㎡で、2階はダイニングキッチンとリビング、ワークスペースという構成。切妻屋根の形そのままの天井は最頂部の高さが約3.4mあり、頭上の広がりが実面積以上の開放感を感じさせている。階段ホールをフロアの真ん中に置き、左右をリビングとダイニングキッチンに分けたプランは、ストレートデザインラボラトリーが手がけた『世田谷ハウス』を踏襲したもの。「家族4人が過ごすLDKと、リモートワークできる場所、寝る場所としての個室があればいい」という要望を受け、『世田谷ハウス』のプランがMさんご家族の暮らしに合っているのではと考え、この土地のスケールに合わせてサイズを調整したプランを提案した。

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2階はひとつながりの空間ながら、階段の腰壁がリビングとダイニングキッチンに程よい距離感をつくり、また、場所ごとに視線の方向が異なるよう家具をレイアウトしているため、それぞれの場所ごとの居心地がある。「家族がどこにいてもお互いを感じられる空間がいいと思っていた」と話すMさん。家族が一緒の空間にいながらも各々の作業や時間に耽ることができる空間は、過ごしやすそうだ。

「コロナ禍をきっかけに夫がリモートワークになったので、ワークスペースは当初は夫の仕事場になる予定だったんですが、今は子どもたちのスペースになっています。キッチンは壁付けでお願いしました。料理や作業に集中できる空間にしたかったんです。対面キッチンでなくても家族の声や気配は届くし、壁向きのほうがキッチンというひとつの空間で作業している感覚になれます」

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1階も『世田谷ハウス』のプランがベースになっており、約7畳の寝室と約6畳の子ども室、洗面脱衣室と浴室、トイレを配置した。蹴込のない階段は上階へと視線が抜け、フレキシブルボードの床もモルタルの土間玄関とひとつながりになって、コンパクトな住まいに奥行きを演出している。ご主人が仕事場として使用中の子ども室は、将来2部屋に分けられるよう出入り口を2つ設けており、「子どもたちが大きくなったら、どう仕切るか本人たちに相談して決めようと思っています」とMさん。今はフレキシブルに使えるように出入り口の建具は付けず、収納も天井際の棚しかつくっていない。建具や造作収納を最低限にしたことは、コストダウンにもつながっている。

「収納らしい収納は、寝室のクローゼットとキッチン横のパントリーぐらい。アメリカで住んでいた家には収納もたっぷりありましたが、その分物も増えて、引っ越す時にはたくさんの物を捨てました。だから、収納はそんなに要らないと思ったんです。そもそも私は面倒くさがりなので、物がたくさんあっても管理しきれない(笑)。いつ来るかわからない来客のために客用布団を持つ必要もないですし、余計な物は持たないようにしています。住み始めてから一年ほどをかけて、今の形に収納が落ち着きました」

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施主支給を多く取り入れているのも、『国立ハウス2』の家づくりの特徴だ。施主自らが建材を購入できるお店やネットショップは増えており、従来の工務店が材料を購入する場合に比べて、手間代分のコストが抑えられるのが施主支給のメリット。ただし、工事の段階ごとにその時に使う材料を揃える必要があるため、Mさんご夫妻は工事のタイミングを見計らいながら材料を手配していったそうだ。

「使う仕上げ材や設備機器の市場価格をチェックして、施主支給したほうが安くなる場合は施主支給、工務店が買っても変わらない場合は工務店側で手配という形で進めました。キッチンのタイルは、最初は『国立ハウス』と同じ白いタイルで考えていたのですが、仕上げの最終決定前にtoolboxで発売開始されたのを見つけて、マットな質感に惹かれて決めました。1階の床にグレーを取り入れているので、2階もカラーがリンクするようにグレーを選びました。洗面には、艶がある濃紺のタイルを使っています」

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約80㎡、坪数は約24坪の現在の敷地を選んだのも、家づくりのコストを考えてのことだった。土地探しをしていた時には、この土地より広い土地もあったという。小さな家を建てて残りを庭にすることも考えたが、Mさんご夫妻の希望エリアは国立の中でも人気のエリアで、土地価格が高め。庭のために広い土地を買う形になることに違和感を抱き、現在の土地を選んだ。2階には庭の代わりとしてL型のバルコニーを設け、洗濯物を干す以外に、子どもたちの遊び場やグリーンの水やりをする場所として使っている。

「家づくりを考え始めた時、すでに長女は小学校に入学していたので、学区が変わらないエリアで土地を探したんです。ここを選んだのは小学校に近くて、道路に面した四角い土地だったということも理由のひとつでした。終の住処にするつもりですが、もしも将来この土地を手放すことがあったら、売る時に好条件になるかもしれないと思ったんです」

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『国立ハウス2』の本体工事費は施主支給分も含めて約2400万円で、ウッドショックや原油高の影響で建材価格が上昇した現在の相場で言えば、1割ほどアップといったところだろう。だが、この家に“ローコスト”といった風情はなく、“洗練された”という言葉のほうが相応しい。玄関に飾られたピーター・アイビーの照明や、TRUCKのダイニングテーブル、ボーエ・モーエンセンがデザインしたヴィンテージのサイドボード、Pacific furniture serviceのソファ、リビングの壁面に添えたエリック・ハンセンのMODEL 324など、時を経ても色褪せない魅力を持った家具や小物たちが、合理的な考えのもとつくられた住まいを彩っている。

土地の選び方も、家のサイズもコストも。家族での過ごし方や物との付き合い方、子どもたちが巣立った後のこと、家族の今とこれからをしっかりと考え、無理がなく心地よいと思えるバランスを見極めた家づくり。必要最低限のサイズと内容で建てることはコストダウンにつながり、コストも身の丈に合った住まいは、そこに住み始めてからの暮らしと将来にゆとりをもたらすことにもつながる。Mさんご家族の住まいは、広さだけでははかれない“住まいの豊かさ”を考えさせてくれる。

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※「2021年首都圏 新築分譲一戸建て契約者動向調査」/(株)リクルート調べ
https://suumo-research.com/

ゆっくり“好き”で満たしていく
ふたりの時間を大切にした住まい

「いくつかの住宅展示場を回って、いろいろなハウスメーカーやビルダーのモデルハウスを見学しましたが、建てたいと思える家には出会えませんでした。そもそも、自分はどういう家がほしいのかが、よくわからなかったんです。でも、いろいろ見て回るうちに、自分はペカペカした素材感が好きじゃないのかもと思うようになって。そんな時に、ストレートデザインラボラトリーを紹介されたんです」(浩子さん)

豊永則昭さんと浩子さんご夫妻は共に40代。浩子さんのご実家の土地の一部を譲り受け、約34坪の旗竿敷地に、延床面積約27坪の2階建てのマイホームを建てた。「設計事務所は敷居が高いイメージがあった」と話す豊永さんご夫妻がストレートデザインラボラトリーに家づくりを依頼したきっかけは、立川にある器のお店『H.works』へ浩子さんが買い物に訪れたこと。店主の園部さんとの世間話の中で、浩子さんが家の建築の依頼先が見つからないとこぼしたところ、『H.works』を設計したストレートデザインラボラトリーをおすすめされたという。

「行き詰まっていたこともあって、相談だけでもしてみようと思って。初めてお会いした時は、設計依頼というよりも、たくさんの住宅展示場を回ったけどピンと来るものに出会えなかったことなど、今までの経緯と状況をお話ししました。住宅展示場では、いくらまで借入できるとか、想定予算でどのぐらいのサイズの家が建てられるのかといった参考になる話もしてもらえるけれど、契約して欲しいという圧をどうしても感じてしまって、それが苦手でした。ストレートデザインラボラトリーの東端さんはそういった押しがなく、自然にお話しができて、お願いしてみようと思えました」(則昭さん)

過去に、セミオーダー仕様の規格住宅を具体的に検討したこともあった豊永さんご夫妻。しかし、結局は用意された選択肢の中からしか選べないことや、オプション扱いになって料金が追加される仕組みに、釈然としない思いを抱いていたという。「限られた選択肢の中で、『こうしたい』を無理やり捻り出して盛り込むより、プロが自分のために提案してくれるものに素直に乗った方が、良い家ができるんじゃないかという気持ちに変わっていきました」と浩子さんは話す。

間取りについては「使いやすい家であればいい」と思っていたという豊永さんご夫妻。唯一リクエストしたのが「夫婦それぞれの個室」だった。則昭さんの仕事には夜勤と日勤があり、浩子さんの仕事は出社が遅く、帰宅も遅め。休日もバラバラなことが多いため、どちらかが就寝していてもそれを邪魔せずに過ごせるよう、1階にそれぞれの個室をつくった。それぞれの部屋へは夫婦共用のWICを通って出入りする。ホールから直接、各部屋へ出入りする動線にした場合に比べて、WICというワンクッションを挟むことで、帰宅後の気持ちの切り替えもゆっくりとできる。

「前に住んでいた賃貸の家は2LDKで、その時も別室就寝していました。私は『夫婦は一緒の寝室で寝るもの』だと思っていたので、結婚後に夫から別室を提案された時はびっくりしたのですが、いざ別室にしてみたら快適で。どちらかが寝ている時の音を気にしなくてもいいし、冷暖房の調整で揉めることもありません。夫婦でも、プライベートな場所や時間を持つことは大切なんだなと思いました」(浩子さん)

1階のホールの奥には独立した洗面所をつくり、脱衣所はランドリールーム兼用にした。「もともと乾燥機と室内干しで乾かすことが多かった」(浩子さん)と言い、新居にはガス乾燥機を採用。脱衣所兼ランドリーには浩子さんの寝室からも出入りができ、洗濯して乾いた衣服をWICに片づけるまでを、短い動線で行うことができる。忙しい共働き夫婦の暮らしに、ゆとりをつくるアイデアだ。

「ガス乾燥機を使うとリネン類はクリーニング屋に出した時のようにふわふわになるし、乾くまでの時間もすごく早い。朝、起きてから洗濯機を回してガス乾燥機で乾かすと、乾いた服をしまうまでを出勤前に終えられるんです。その分、仕事から帰ってからの家事が少なく、のんびりできます。私の部屋は浴室も隣にあるので、浴室と部屋でアロマを焚いて、お風呂上がりにそのまま寝ちゃうことも。ひとり暮らしみたいで快適だなと思うこともあります(笑)」(浩子さん)

2階は夫婦が一緒にくつろぐLDK。斜線制限いっぱいに頭上の空間を確保したリビングは、最頂部の天井高さが4.5mあり開放的だ。一方、ダイニングキッチンは、天井高さを抑えた落ち着く空間に。床は『世田谷ハウス』を見学して気に入ったというリノリウム。キッチンの100角白タイルは『国立ハウス』を参考にした。そうやって、豊永さんご夫妻が「好き」だと感じたものを盛り込みながら空間をつくっていった。

「リビングとダイニングキッチンはパーティションで仕切ってもらいました。『H.works』に使われていた中桟の入った木の建具が素敵だと思って、我が家にも取り入れたいと思ったんです。でも、年齢を重ねると趣味も変わっていくし、木の素材が多い家なので、そればかりじゃないほうがいいかもしれないと東端さんに相談をしたら、スチールフレームのパーティションになりました」(浩子さん)

豊永さんご夫妻の「長く暮らす家だから」という考えは、シンプルなこの家を彩る照明器具選びにも及んでいる。リビングには1950年にデザインされて以降、多くの人に愛されているジャン・プルーヴェの「Potence」、ダイニングにはアイノ・アアルトの「AMA500」、リビングの補助照明にはオブジェのような佇まいをしたNEW LIGHT POTTERYの「SET」を選んだ。

「アアルトの『AMA500』は、家づくり中に限定色のグリーンが売られているのを見つけたんです。最初は色の主張が強いのでどうかなと思ったのですが、どんどん商品点数が少なくなっていくのを見て購入を決めました(笑)。その後、このペンダントライトに合わせるダイニングテーブルをどうするか悩んで、行き着いたのがアルヴァ・アアルトの『TABLE 90A』。家づくりの過程を経て、自分はこういうデザインが好きなんだなって、好みに気づいていきました」(浩子さん)

アアルトのペンダントライトは、浩子さんが自分の“好き”を発見するきっかけになっただけでなく、室内のカラーコーディネートにも影響した。リノリウムの床は、フローリングとの色馴染みがいいテラコッタ色をセレクト。室内の壁は白ではなくウォームグレーで塗装して、パーティションのスチールフレームもグレーに。ラワンで造作した収納扉などの建具はオイルで仕上げたり、ペンダントライトのパーツとリンクする真鍮を玄関框に取り入れるなど、北欧の家具に似合う色味を考えながら選んでいったという。

「広い面の色選びは、悩みました。最初は、リノリウムの床はグレーを検討していたんですが、オークフローリングと並べた時にパキッと色味が分かれてしまうのが気になって。そうしたら東端さんが赤系を提案してくれて、『この色だ!』って。床を決めてから壁の色を検討して、木の色にもテラコッタ色の床にも馴染むウォームグレーで塗装してもらいました。外壁もグレーなんですが、思っていたよりも暗くならず、天気によって白っぽく見えたり落ち着いた色に見えて、気に入っています」(浩子さん)

リビングにはソファではなく、カール・ハンセン&サンの「MG501 キューバチェア」を2脚置いた。折り畳んで持ち運びができ、屋外でも使用できるタイプなので、バルコニーで使うことも考えているそうだ。ソファからパーソナルチェアに変えた知人に影響を受け、ソファを手放したという浩子さん。「家具は軽やかなものの方が良いと思うようになった」と話すが、物を増やさない主義というわけではなく、住み始めてまだ3ヶ月の余白がたくさんあるこの家を、今後ゆっくりと時間をかけて満たしていくつもりだ。

「家づくり中に断捨離をしました。大きくて重いものや、今の好みに合わないと思うものは思い切って手放して、新しい家で好きなものを見つけて揃えようと思ったんです。とりあえずで買うともったいないと思って使い続けてしまうので、じっくり選んでいきたい。今はリビングに敷く敷物を探していて、オーディオやプロジェクターも揃えて音楽や映画も楽しみたいと思っています。夫は自室の蔵書を増やしていくだろうし、私は祖母から譲り受けたミシンを使って裁縫をしてみようかなって。犬か猫を飼う構想もあります。この家に暮らし始めてから、やりたいことがたくさん出てくる。家のことを考えるのが、とても楽しいです」(浩子さん)

故きを温ねて新しきに活かす
欲しかったのは時を経るほどに良くなる家

レンガ敷きのアプローチとガラスブロックで構成された玄関が、昭和の戸建てを思わせる「世田谷ハウス」。この家に暮らすのは、40代のご夫婦とお子さん2人のOさんご家族だ。「古き良き住宅」のディテールが随所に散りばめられたその住まいには、すでに長くここに暮らしてきたかのような心地よい空気が漂っていた。

straight design lab | setagaya house

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「最初は建売住宅を見ていました。でも、“この家はいいかな”と思っても、どこか気に入らないところを見つけてしまう。見学に行くたびにそんなことを繰り返して、かかる費用が同じくらいなら、自分たちで細部まで決めてつくった方がいいなと思ったんです。この土地は、3方向が開けていて日当たりが良く、隣家との距離もあり、近隣からの視線を気にせずに暮らせそうだったことが選んだ理由でした」

シンプルな四角い箱に切妻屋根を乗せた住まいは、1階が寝室と子供室とウォークインクローゼット、サニタリーで構成され、2階は階段を囲むようにリビングとダイニングキッチンがつながった間取り。リビングの奥には、趣味で服飾雑貨を作っている奥さんのためのアトリエも設けた。外観の屋根形状そのままの高い天井が広がる2階は、パノラマ状に連なる腰高窓がその開放感をさらに高めている。

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「2階はどの窓からも眺めが良くて、とても気に入っています。特にダイニングの窓は東に向いていて、朝がとても気持ちがいいんです。2階に掃き出し窓とバルコニーを付ける案もあったのですが、1階のテラスと庭で十分だと思い、付けませんでした。ソファや床に座っていると、窓からは空しか見えなくて、近隣からの視線も気になりません」

プランニングの際は、ストレートデザインラボラトリーが作った家の模型を持ち帰り、プラン変更がある度に自分たちで変更通りに模型に手を入れ、中にスマホを入れて写真を撮り、空間の見え方をシミュレーションしていったというOさんご夫妻。特に、窓のサイズや位置ついてはこだわり、当時住んでいた家の壁にマスキングテープを貼ってサイズ感を確認するなど、入念に検討したそうだ。

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「リビングの窓辺は奥行きの浅い出窓にしてもらいました。以前暮らしていた古い戸建てに奥行きの浅い出窓があって、その窓辺が好きだったんです。窓枠やドアの枠は、修繕でペンキが塗り重ねられた昔の家のような仕上がりにしたくて、クリーム色の艶感が強い塗料で仕上げてもらっています」

出窓の奥行きは20cmほど。ほんのわずかなスペースだが、グリーンを飾ったり、肘を置いて外を眺めたりできる、暮らしにゆとりを生むスペースになっている。古い建物が好きで、築年数を経た木造の戸建てやマンションに暮らしてきたというOさんご夫妻。これまでに住んだ古い家々のお気に入りのディテールを新しい家に盛り込むことが、家づくりの際の要望だった。

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「ストレートデザインラボラトリーに設計を依頼したのは、雑誌で見た『HOMEBASE』がきっかけでした。新築の住宅にアンティークのパーツを取り入れているところに惹かれて、連絡をしたんです。お話をするために『国立ハウス』に伺った時、建ってから10年経ったその家の佇まいがすごく良くて、その場で設計依頼を決めました。新築の状態が一番良いという家は嫌でした。古くなっても良くなる家に住みたかったんです」

時を経て味わいを増す家にしつつ、建った時点でも適度に古びた雰囲気を目指したというOさんご夫妻。古いマンションやビルの手摺りをイメージしてスチールと木で造作した階段の手摺や、各所に設けた明かり取りの室内窓、経年して色が濃くなったような色味で仕上げたシナ合板造りの収納、そこに取り付けた昔からある形のツマミなど、細かなディテールの積み重ねで、Oさんご夫妻が使ってきた古い家具や雑貨にも馴染む、懐かしい雰囲気を空間につくり出した。

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「キッチンは、ごちゃごちゃをあまり見せたくなかったので、オープン過ぎない空間にしてもらいました。タイルは定番ものが使いたくて、100角の白タイルを選びました。HAYの「インディアンラック」は個人輸入したものです。オリーブグリーンの床は、水廻りに使えて床暖房にも対応する素材として、ストレートデザインラボラトリーが提案してくれたリノリウム。各色のサンプルを取り寄せて、手持ちの古い椅子やテーブルに似合う色を選びました」

古い家のテイストを取り入れる一方で、快適な暮らしのための機能もしっかり求めたOさんご夫妻。古い家での暮らしは冬が寒かった経験から、2階のダイニングキッチンとリビング、1階の子供室には床暖房を取り入れた。階段ホールが吹き抜けており、1階と2階がつながるワンルーム的な大空間だが、冬はエアコンを使わないほど暖かいそうだ。

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「今まで住んできた家で自分たちの好きなものや生活スタイルもわかっていたので、設計の際、要望をスムーズに伝えることができました。床暖房のほかに叶えたかったのは、寝室から独立したウォークインクローゼット。洗面室から出入りができるので、夫が仕事で深夜に帰宅しても、寝ている家族が物音で起きてしまうことがなくなりました」

主寝室とウォークインクローゼットには、Oさんご夫妻がどこかに使いたかったというパーケットフローリングを採用。ウォークインクローゼットは寝室とテラスにも出入りすることができ、身支度動線も洗濯動線も快適だ。

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「子供室にはドアをつけて、ホールの部分は土間にしようかとも思ったんですが、一体に使える空間にして良かったです。子供部屋をつくっても、結局子供は親のいるリビングにいるというケースをよく聞きますが、この家は吹き抜けを通じて声が届くので安心するんでしょうね。子供たちは1階で遊んでいることが多いです」

異なる場所にいても、お互いの様子が伝わる距離感が心地よいと話すOさんご夫妻。リビング、ダイニング、キッチンをコの字型に配置した2階も、一室空間でありながらそれぞれの場所で過ごす際の視線がぶつからないことで、場所ごとにこぢんまりとした居心地が生まれている。

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「2階は天井からの照明の数を絞って、その分ブラケットライトを取り付けたり、テーブルランプやフロアランプを各所に置いているのですが、夜にそうした明かりの中でくつろぐ時間もお気に入りです。夜に帰宅して我が家を見た時、窓から明かりが漏れている様子がとてもいい雰囲気なんです」

大屋根の下に広がる一体空間に、開放感と落ち着きが同居する住まい。そんな相反する居心地を両立させているのは、空間のレイアウトや窓の大きさといった設計デザインだけでなく、古い家のディテールの反映や置かれた家具や小物、照明使いなど、Oさんご夫妻ならではのセンスだ。Oさんご夫妻が古い家に感じた、時を経ても色褪せない魅力を映した空間は、これから実際に年月を重ねることで、その真価を発揮していくのだろう。長く住むことが楽しみになる住まいだ。

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「半屋外空間」が広げる暮らしのシーン
たくさんの居場所がある、つくり込んでいく家

「立川ハウス」に暮らすWさんご家族は、40代のご主人と30代の奥様、小学生の長女と長男の4人家族。立川市の住宅街に建てたマイホームは、延床面積が約98㎡の木造2階建てで、間取りはリビングとダイニングキッチンと小上がり、納戸と主寝室と将来2部屋に分けられる子ども部屋。と言うと普通に聞こえるが、この家には間取り以上の居場所と、さまざまな暮らしのシーンを生み出す仕掛けがある。そのひとつが「半屋外空間」だ。

当初は、自転車屋さんに持っていってメンテナンスやカスタマイズをお願いしていたんですが、だんだん自分でいじるようになりました。家を建てる前に暮らしていたアパートでは駐輪場は野晒しで、作業できる場所もなく、だから家を建てるなら、屋根付きの自転車置き場と作業ができる場所が欲しかったんです」(ご主人

大きな庇に覆われたポーチはコンクリートの土間床に。家族4人分の自転車を置いても余裕の広さがあり、雨の日でも気兼ねなくメンテナンスに勤しむことができる。「駐輪のための屋根付きのポーチ」は贅沢にも聞こえそうだが、家族の日常の足となり、ご主人にとっては「通勤の足」以上の愛着がある自転車に定位置を与えることは、心地よい生活を送るためのマストアイテム。ポーチは、家のファサードにゆとりを感じさせる効果も生んでいる。

「僕はマウンテンバイクやスキー、スノーボードも趣味なんです。グッズのメンテナンスが家の中でもできるように、玄関の三和土だけでなく、玄関ホールもリビングも土間にしてもらいました。あと、美容師をやっている妻が家で家族のヘアカットをしてくれるんです。土間床にしておけばカットした髪の毛の掃除も楽ですから。玄関ホールには妻の希望でシャワー付きのシャンプー台も取り付けてもらいました」(ご主人)

手洗い場も兼ねたシャンプー台の隣にはトイレがあるが、「トイレの存在感をなくしたい」という奥様のアイデアで、ドアにはハンドルの代わりにIKEAのタオルハンガーを取り付け。それにより「ドア」の存在感が消え、ヘアサロンのシャンプーコーナーのような雰囲気に。シャンプー台を取り付けた壁を腰高さまで白タイル貼りで仕上げたことも、「玄関ホール」としてだけではない空間の居心地を生み出している。

「リビングがモルタルの土間なので“寒くないの?”と聞かれるのですが、冬の寒い時は床暖房を入れたダイニングで過ごすし、夏は土間のリビングが涼しい。季節によって過ごす場所を変えればいいと思っています」(ご主人)

移動型民族のような考え方がユニークなWさんご家族だが、そんな考え方ができるのも、この家にはさまざまな「居場所」があるから。土間リビングの横には、庭へと続くウッドデッキを造作。奥行きを1.8mとたっぷり設けたウッドデッキは、ハンモックを広げたりアウトドアチェアを置いても十分な広さ。土間床のリビングと相まって、「半屋外のリビング」として家族の日常の中に活きている。

ダイニングの一角に設けた3帖ほどの小上がりも、フレキシブルに使える「居場所」のひとつ。子どもの遊び場になったり、勉強スペースになったり、食後に家族でくつろいだりする、家族の憩いの場だ。リビングとはあえて壁で仕切ることで、独立感のある空間に仕立てている。小上がりの床下にある収納はご主人がDIYで造作。キャスターと把手付きで、引き出せるようになっている。小上がりに置かれた棚のようなテーブルと、ダイニングにある子どものデスクもご主人の作だ。

「あらかじめつくり込んだものが用意されているよりも、どこにどんな収納や家具があったら自分たちの暮らしに合うか、イメージしながら決めていきたくて。だから室内の壁も、棚などが取り付けやすいように合板に塗装で仕上げてもらいました。前のアパートは3LDKでしたが、使わない部屋があったり、収納が分散していて使いづらく、僕らのライフスタイルに合っていないなと感じていました。暮らしながら自分たちに合う形にしていきたいから、間取りもインテリアもつくり込まれていない家を望んでいたんです」(ご主人)

そんなマイホームを思い描きながら家づくりの依頼先を探し、出会ったのがストレートデザインラボラトリー。その設計事例を見て、「生活感を感じるけれど整っている」と感じたと奥様は話す。白い100角タイルが整然とした雰囲気を醸しつつ、下部がオープンになったキッチンも、まさにそんな空間だ。

「キッチンの、流しの下にある扉付き収納が好きじゃなくて。なのでオープンにしてもらいました。ダイニングとキッチンを仕切る食器棚兼カウンターは、ストレートデザインラボラトリーに設計してもらい、大工さんに作っていただいたもの。円形のダイニングテーブルは、スペースに収まるようにcampの大原温さんに作ってもらいました。円形のテーブルは、お客さんが来た時もみんなでテーブルを囲みやすいですね」(奥様)

家族の居場所のほかにこの家で着目したいのは、夫と妻の「それぞれの居場所」もあること。玄関ホールの先に設けた約4帖の納戸は、ご主人の趣味のアイテムの収納場所であり、趣味の部屋でもある。天井側の棚や跳ね上げ式のカウンターデスクは、ご主人のDIYによるもの。新型コロナウイルスの感染拡大により子どもの学校や保育園が休みになった期間は、こもれる仕事部屋としても重宝したそうだ。

「私もこもれる空間が欲しかったので、キッチン横のパントリーにカウンターデスクをつくってもらいました。リビングやダイニングの気配を感じながらも一人になれる場所で、気に入っています」(奥様)

主寝室と子ども室がある2階も、つくり込み過ぎていない大らかな空間。子ども室は割り切って北側に配置した。開口は控えめだが、片流れ屋根による勾配天井が屋根裏的な楽しさを感じさせる空間だ。南側のバルコニーに面した主寝室はその天井高さを活かして、ラフに収納ができる枕棚を造作した。

「子ども室は将来2部屋に分けられるように、壁に柱を入れてもらいました。でも、壁を立てずに収納家具で仕切るかもしれません。子どもがいる今のライフスタイルだけに合わせてしまうと、いつか夫婦2人になった時には合わなくなってしまうから。その時その時の暮らし方に合わせて、家の中をつくっていけばいいと思っています」(ご主人)

2階の南側にはバルコニーと洗面脱衣室、浴室を配置。ハイサイドライトから光が注ぐ浴室と、洗面脱衣室と一体化させたトイレ、バルコニーに面した洗面脱衣室はどこも開放的で、洗濯も身支度も気持ちが良さそうだ。トイレを洗面脱衣室と一体にしたことは、子ども室にたっぷりの広さを確保することにもつながっている。

「最初は北側に水回りを配置するプランもあったんですが、南側に移動してもらいました。家族みんなが使う場所だから、気持ちが良いところにしたくて。でもここだけじゃなく、小上がりで寝転がっているのも、リビングのソファに座るのも、バルコニーも庭も、どこにいても気持ちが良い。居場所がたくさんある家です」(ご主人)

この家で「私」を生き直す。
素の自分のままでいられる場所

家は私のアイデンティティ。家は私そのもの。そんなふうに言える家で暮らすことは、どれほどの幸せだろうか。ただし、その幸せを手に入れるためには、「私」を深く知ることが重要だ。または、それを探究し続けようという姿勢。ゆっくりと長い時間をかけて自分に向き合い、「本当の自分のままでいられる場所」を見つけたKさんの家づくりは、「自分らしい家をつくる」ことの本質を問いかけてくれる。

『私は将来、大きな家に住んで、庭で畑をやりたいです』。Kさんが子どもの頃、タイムカプセルに入れた手紙に書いたのは、そんな夢だった。40代のKさんが家を建てたのは、山の緑と空が見える高台の住宅地。季節によって彩りを変えるさまざまな草木が植えられた庭には、燦々と陽が降り注いでいる。この家は、Kさんにとって二度目の家づくりだった。

「結婚して、初めて家をつくったとき、私はそれにお金もエネルギーも、すべてを注ぎ込みました。大きな家で、広い庭もあって、薪ストーブがあって、オーダーした家具を並べて、台所道具もさまざま揃えて。すごく素敵な家でした。建築家が細部までこだわって設計してくれた家はよくできていて、大事にしながら暮らしていました。3人の子どもを育てながら忙しく働き、満たされているはずでした。でもずっと、“何かが違う”という違和感がありました」

当時について、「対外的な絵面を整えることばかりに意識がいっていて、本当の自分に向き合うということができていなかったんだと思います」と振り返るKさん。幼い頃からの夢だった『大きな家』での暮らしから子どもたちを連れて出奔し、この家をつくるまでのKさんの数年は、『自分らしい暮らし』を考える時間だった。前の家から半分の面積になった賃貸マンションで送った母子4人暮らしは、想定外の軽快さだったという。

「自分がどういうふうにしているのが好きなのかを、じっくりと知っていくことができました。狭い家でも全然大丈夫だったし、持ち物をコンパクトにすることも得意になっていました。以前から高知にある『沢田マンション』(※建築の専門家ではない夫婦がセルフビルドでつくった集合住宅)に住んでみたくて、子どもたちとそこにしばらく暮らしたこともありました。どんな家でも、コンビニのご飯でも、子どもたちと笑いながら過ごせたことで、“私はどこでも楽しく暮らせる”という自信がついていったんです」

そうした経験ののちに建てたこの家は延床約34坪の木造2階建てで、家族4人が暮らす家としては一般的なサイズだ。パーケットフローリング敷きのLDKは約15帖とややコンパクトだが、Kさん家族は家にいるとき、ほとんどの時間をLDKで過ごしているという。ヴィンテージの大きなダイニングテーブルで勉強をし、お菓子作りをし、リビングで楽器をしたり遊んだり。休日もほとんど出かけず、家で一緒に過ごしているという。

「私たち、旅行に行ってもずっと宿の部屋でくつろいでいるんです。そもそも、レジャーがあまり好きじゃなかったんですね。家でもいつもみんなでリビングに固まっているから、広い空間は必要ないなと思って。本当は、もう私は家をつくるつもりがなかったんです。きっかけは、娘が“自分の部屋が欲しい”と言い出したことでした。それで、気分転換のつもりで土地を見に行ったら、ここに出会ったんです。子どもたちは敷地の前の坂でスクーターで遊びたい、ここに建てたいと言うし、私も山が見えることとこの場所の空気感が気に入って。そうしたら急にやる気が湧いてきて、この土地を買っていました」

2階は北側に寄せて、家族それぞれの個室を4つ並べた。景色が開けた南側には廊下を配置。幅1.2mと幅に余裕を持たせた廊下は、一面に腰高の窓を設けた。布団を干したり、共有している本を置いたり、セカンドリビング的にくつろぐスペースとして使われている。

「個室を使うのは寝るときぐらいなのですが、私も含め、一人になれる場所も必要だと思って。服は家族みんなのぶんを1階のウォークインクローゼットにしまっていますが、そのほかの私物は個室に片付けるというルールで、共有スペースを家族みんなが心地よく使えるようにしています。一般的な家を考えたら、南側に個室という間取りになるのが普通だと思うんです。なので南側に廊下という提案にはびっくりしました。ここはとても贅沢な空間。このtoolboxのガーゼカーテンの光の透け具合もお気に入りで、夜に帰宅したとき、カーテンから光が漏れる家の姿を見ては、“良い家だなぁ”と感慨にふけっています」

傾斜地に建つ家は、1階からも山と空が見える。庭側には、屋根と囲いを付けた4.5帖ほどのテラスをつくった。半屋外的な空間は、リビングの延長のような場所になっている。傘を干したり野菜を置くなど、家事室的にも使っているそうだ。テラスの横にあるのは居室から区切られた完全防音の音楽室で、近隣を気にせず思い立ったときにピアノが弾けるこの部屋の存在も、コンパクトにまとまった住まいでの暮らしにゆとりを与えている。

「音楽室は、最初は普通のつくりにして、アップライトピアノを置きつつみんなの趣味室として使おうと思っていました。でも当時、ストレートデザインラボラトリーのお仕事が詰まっていて、我が家の設計を具体的にスタートするまで半年ほど時間が空いたんです。その間に、“やっぱりグランドピアノを置こう!”と思い至って。設計が本格化する前に、家について考える時間を充分に得られたことは、私にとっては幸いでした」

最初の家づくりでの経験から、今回は「自分の希望を、素直に遠慮せず言える相手に設計を依頼したい」と思っていたKさん。当初は別の設計事務所と家づくりを進めていたが、Kさんのやりたいことと建築家のやりたいことにズレを感じ始めたところで、建築家側から「私じゃなくてもいいのではないでしょうか」と助言され、計画を白紙に戻すことに。意気消沈したものの、家づくりの参考事例や建材パーツを探す中で見かけたストレートデザインラボラトリーを思い出し、「逆にこれは好機だ」と即座に連絡したという。

「私好みのパーツや素材を使ってくれそう、と思ったんです。そういうものは、建築家が決めるもの、という思い込みがあったんですよね。ストレートデザインラボラトリーなら、特別リクエストしなくても私の好きなものが使われた家ができそうだと思ったんです。実際は、パーツも素材も色も、自分の希望を反映できたわけですが。ストレートデザインラボラトリーの設計する家は、家によって顔が違うんです。それぞれの住まい手ごとの家をつくっていると感じました。今度こそ、“私の家”がつくれるんじゃないかと思ったんです」

設計スタートを待つあいだ、Kさんは再度、“私の家”を熟考。海外製のガスオーブン付きコンロや照明器具を入手したり、当時住んでいた家での暮らしで不便だと感じることを検証したり、愛用している家具や道具を活用できるベストな形を検討したり。設計開始後は、そうしてKさんが研究し尽くした細かな暮らしのディテールを図面に落とし込んでいった。中でもキッチンは、Kさんの理想を詰め込んだ場所だ。

「間取りはプロに任せるところだと思うんです。それよりも大事にしたのは、ディテールでした。どんなパーツや素材を使うのか、暮らしの道具をどこに置くのか、どう使うのか。そういったことを反映していくことで、“私の家”になる。キッチンは特にこだわったところで、建築家の阿部勤さんの自邸を参考にして手前にバーをつけたり、自分の身長に合わせて出窓の高さや奥行きを決めたり、スポンジを吊せるように水切り棚を付けたり、食器棚の位置やゴミ箱を置くスペースのサイズを決めたり…。見た目の好みだけでなく、自分に合う使い勝手も叶えたかったし、それを考えている時間はものすごく楽しいものでした」

空間と持ち物の色合わせにもこだわったというKさん。Louis Poulsenのランプのオレンジと、ミントグリーンのヴィンテージランプ、STAUBの鍋の色、レードルの赤、ダークネイビーで塗装した階段という、ダイニングキッチンを眺めたときの風景は、特にお気に入りだという。壁の色は、手持ちのSTANDARD TRADEの家具やヴィンテージ家具に似合いつつ、温かみも感じる黄色味がかった白をセレクト。パステルブルーにグレーをライン状に入れたタイルで仕上げた洗面室と、パステルイエローのタイルを貼った浴室は、ほのかに昭和レトロを感じさせる。

「古いものというか、“定番”と呼べるようなものが好きなんです。時代が変わってもその良さが変わらないもの。あとは、見た目だけでなく使い勝手もきちんと良いもの。この家も、余計な装飾や凸凹がなくて、掃除しやすいのが良いです。家も道具も、きれいにしやすい形の方が気持ちがいい」

Kさんの一日は、朝4時から始まる。洗濯機を回し、浴室とトイレを掃除して、キッチンを拭き上げ、ガス乾燥機に洗濯物を入れる。そして近所の山へ散歩へ出かけ、家に戻ったら庭の手入れをし、乾いた洗濯物を隣のウォークインクローゼットに片付け、子どもたちの朝ごはんの定番だというマフィンを作る。夜も、仕事から帰ったら寝る寸前まで家の掃除や片付けをして、「今日もやりきった」という満ち足りた気持ちで眠りにつく。そんなルーチンをこなしたり、ルーチンの中で新しいことを発見する瞬間が、心地よいのだという。

「道具というものは、手入れをしながら使うほど、整っていくと思うんです。道具も、庭も、家も。手をかけて大事にするほど輝く気がするし、そうしたものに囲まれていると自分も元気が出てきます。この家は、まさに私の分身。家に手をかけることは、自分自身を大事にすることと同じだと思うんです。今はもう絵面ではなく、素の自分でいられる。この家を建てるのと一緒に、私も自分の生き直しをしたのだと思います」

5人家族の未来をおおらかに受け入れる
大きな土間があるワンルームのような一戸建て

埼玉県さいたま市の古くからの住宅地に建つ「浦和ハウス」。この家に住むのはSさんご夫妻と、15歳の長男、4歳の次男、3歳の三男の3兄弟。家族5人が暮らすためのマイホームづくりでSさんご夫妻が求めたのは、今後変わり続けていく家族の暮らしに応える自由度のある空間だった。

ウッドデッキを通ってアプローチする玄関。引き戸を開けて中に入ると、広がるのは大きな土間空間だ。モルタルの床は家の奥まで続き、ウッドデッキ側に設けた掃き出し窓が取り込む外の景色や、階段の吹き抜けから落ちる光と相まって、屋外のような開放感がある場所になっている。

「長男が小学生の頃、お友達を連れて帰って来ることが多かったんです。次男と三男もいずれ小学生になるので、玄関を入ってすぐに広い場所があったら、気軽にお友達を連れて来れるんじゃないかと思って。この辺りは、以前は大きな家だったところを2軒や3軒分に分けた土地に建つ家が多いんですが、運良く間口が広い土地に出会えた。家の中も、外に対しても開かれた、おおらかな家にしたかったんです」(奥様)

玄関を入ってすぐ、土間の右横に広がるパイン床のスペースは、目下のところキッズスペース。その隣には現在、長男が使っている個室があるが、長男の「部屋を閉じたくない」という意向もあり、壁の上部は欄間状にして声や気配が届くつくりになっている。キッズスペースは将来、次男と三男の部屋として使うことを想定しているが、壁は立てずに家具で仕切るつもりだと言う。

「子供部屋はひとつしかつくりませんでした。長男と下の子たちの年齢が離れていて、個室が必要になる時期が違うので、フレキシブルに使える場にしておきたいと思って。将来、私たちの親と同居する可能性もあるし、私たち自身が高齢になったら1階で生活する可能性もあります。家をつくる時って、どうしても今の家族の姿に目がいきがちですが、子供はすぐ育つもの。今の時点で空間の使い方を決め込んでしまうよりも、後から使い方を変えられる自由度がある空間にしたいというのが、当初からの希望でした」(奥様)

玄関の外に設けたウッドデッキも、家族の暮らしの変化に対応するための要素。現在は自動車を所有していないが、もし将来家族の誰かが車を持ったときには、ウッドデッキを撤去すれば駐車スペースが確保できる。

「庭にすることも考えましたが、東向きであまり日当たりが良くないことと、家のどこかにウッドデッキを取り入れたかったこともあって、こうしました。子供たちが土間からそのままウッドデッキに出て遊んでいたりして、外のようにも中のようにも使える場所として重宝しています。目の前の通りは車の交通量が多いので、通りとの緩衝帯の役割も兼ねる場所になってくれました」(ご主人)

玄関から土間でひと続きになったサニタリーも、「自由度のある空間」を求めた結果だ。Sさんご一家はもともとシャワー派ということもあり、壁で囲ったシャワーブースと洗濯機ブースをつくり、洗面スペースはオープンに。浴槽は脚付きの置き型を選び、脱衣所を兼ねた空間としてシャワーカーテンで仕切っている。天井にはハンガーパイプが付いており、入浴時や洗顔時にはタオルを掛けたり、室内干し場所としても使える、多機能な空間だ。

「湯船には時々浸かれればいいし、だったら浴室として閉じてしまうよりも、使い方が広がる場所になるといいかなと思って。夏の暑い日はプール感覚で使ったりしています。洗面スペースは隣に掃き出し窓もあって開放的。ここで顔を洗うのはとても気持ちがいいし、洗濯物の下洗いなどの作業もしやすいんです」(奥様)

階段の吹き抜けで1階とつながる2階も、和室の引き戸を開ければ全体が一体になる空間。完全に閉じられているスペースがほとんどない、家全体がワンルームのような住まいだが、設計初期のプランは今よりも家族個々人のプライベート空間が重視された内容だった。しかし、Sさんご夫妻の「もっとオープンな空間にしたい」という意向から、試行錯誤を重ねて現在のプランにたどり着いたという。

「当初から導入したいと思っていた薪ストーブは、この家に最適でした。冬は階段の吹き抜けを通じて暖かい空気が回って、2階もロフトも家中が暖かい。薪ストーブでピザを焼いたり鍋をやったり。冬は1階がリビングダイニング状態になります」(ご主人)

2階のキッチンは「ダイニングの自由度が少なくなる」という理由から壁付け型に。対面型にすると、レンジフードや吊棚によって三角天井の抜け感が損なわれてしまうということも理由だった。造作のカウンター収納は床に固定しておらず、空間の使い方に合わせて動かすことができる。小さな子供がいる生活だが、子供たちが家のどこにいてもその様子が把握できる空間なので、対面型でなくとも不便はないそうだ。

「直径が150cmあるダイニングテーブルは、campの大原温さんにオーダーしたもの。ストレートデザインラボラトリーの東端さんに“リビングの家具や収納家具はなくても生活できるけど、食事をするテーブルは絶対に必要なもの”と言われて、近所に住む親族と一緒に食事をすることも多いので、天板の広さが足りなくなることがないよう、大きなサイズで作ってもらいました」(奥様)

現在、夫婦と幼い兄弟たちは、リビング横の和室が寝床。起床時は押入れに寝具を片付け、和室もリビングの一部として使っている。和室に合わせて低めに設けた出窓は、「ムーミン」好きな長男のリクエストを取り入れた場所。ベンチになったり、棚になったり、テーブルになったりと、次男と三男の遊び場としても活躍している。

「ベッドへの憧れはありましたが、ベッドを置くと、寝室としてしか使えない場所になってしまうから。和室はフレキシブルに使えるのでいいですね。ソファはデンマークの建築家、フィン・ユールの自邸のベンチソファへの憧れがあって、そのイメージでcampの大原さんにデザインしてもらいました。大きくてゆったりしていて、家族のお気に入りのソファです」(奥様)

物の露出がほとんどない空間だが、それを可能にしているのは、要所要所にしっかりボリュームを確保して設けた収納スペース。家族の衣服はサニタリー横のウォークインクローゼットに、調理器具や食品ストックは冷蔵庫と共にキッチン横のパントリーに、本や漫画はロフトに収納。各居室に細々と収納を造作すると、収納によってその場所の使い方が制限されてしまうが、何もない壁面やフロアを多く残すことで、自由な空間の使い方を可能にした。

「実は整理収納が苦手なんです。服を畳むのも得意じゃないし、家族それぞれの物を仕分けして、それぞれの場所に片付けるのは大変。サニタリー横のウォークインクローゼットは、サニタリーで洗って干して、乾いたらそのままハンガーパイプに戻したり収納ボックスに入れればいいので楽ちん。壁面やフロアに余裕があるので、今後気に入る家具に出会ったら、それをレイアウトしていくという楽しみも生まれました」(奥様)

徹底して「空間の自由度」にこだわってプランニングされた「浦和ハウス」。長く住む家だからこそ、暮らしの中で変り続けるもの、変わらずに必要なものをしっかり見極める。「変わること」をポジティブに受け止めるおおらかな空間は、家族それぞれの生き方への考えも自由にするようだ。

「この家には、住みながらつくっていける余地がたくさんある。下の子供たちがもう少し大きくなったら、1階を仕事場にして家で働くこともできるかも。子供たちが望めば、ロフトを子供部屋にする可能性もありますね。夫は自分の部屋にしたいと考えているかも。いろんな可能性を考えながら暮らせるのが、楽しいです」(奥様)

– 10 years later –
暮らしが変われば求める豊かさも変わるから。
“工夫すること”を楽しみ続ける住まい

子供の成長や巣立ち、働き方や趣味嗜好の変化など、「暮らし」は変わり続けるもの。一方、「暮らし」がどう変化しても、「豊かに暮らしたい」という思いは人の心に常にあるものだろう。庫本知典さんと有基子さんご夫妻、長女と長男の4人家族が暮らす「宇都宮ハウス」が建ったのは2009年。当時はまだ幼かった子供たちも、今では高校1年生と小学5年生だ。「自分たちで工夫しながら住みたいから、ちょっと足りないぐらいの家が欲しかった」と話す庫本さんご家族の、暮らし始めて10年目の住まいを訪ねた。

「10年住んでも、“あそこをこうしてみたい”、“こんなことしてみたい”っていう思いが次々と出てくる。以前に比べたらインテリア雑誌や住宅の雑誌は見なくなったけれど、それでも暮らしていると、そういう欲求が出てくるんです。子供に手がかからなくなったら、少しずつじっくり手を加えていこうと思っていたんですが、今度は習い事やスポーツ活動に忙しい。“家に手をかける”というのは、強い意志を持って臨まないとなかなかできないものなんだなというのが、10年住んで学んだことです(笑)」

有基子さんはそう話すが、ご夫妻が植えた草花が生い茂る庭、バジルやセージ、トマトが育つ家庭菜園、表札の位置には魚のオブジェが飾られていたり、ブリキのバケツが郵便物入れとして使われていたりと、外回りを見ただけでも、“家に手をかけながら暮らす”という庫本さんご家族のスタイルが感じられる。

「アトリエは、いつか子育てや仕事が落ち着いたら、家で陶芸をやりたくてつくった場所。今は、応接間的に使うことが多いですね。プロジェクターで壁に映画を映して家族みんなで観たり、大人の飲み会をここでしたりしています。キッチンと玄関土間のあいだにつくった小窓がお茶や料理を出すのに便利で、重宝しています」

アトリエの棚にはお気に入りの器や雑貨が飾られ、正面の壁にはつい最近、佐々木美穂さんのイラストを飾った。有基子さんが夢である陶芸をここで始める日はもうしばらく先のようだが、家族のエクストラスペースとして使いながら、いつかの日の姿を想像して楽しんでいるそうだ。アトリエとLDKは、大谷石が敷かれた玄関土間で区切られており、行き来する際は下足を履くため、有基子さんは「離れみたいな感覚で、気持ちが切り替わる」と話す。

「ダイニングもお気に入りの場所。食卓からアオダモの樹が見えるようにしたかったんです。この吹き抜けも好きです。明るくて気持ちがいいし、上下階で声が届くのもいい。このあたりの戸建ての規模としては、うちは延床面積が100㎡ちょっとで小さい方なんですが、庭に面したリビングの窓や吹き抜けのおかげで、広く感じます」

階段の手すりに張られたカラフルなロープには、ポストカードや子供たちの学校やスポーツ活動からのお便りが吊るされている。これは子供たちが小さかった頃、転落防止ネットを張っていた時に生まれたアイデア。ダイニングとリビングのあいだにはIKEAのカーテンレールを取り付け、客人が泊まる時は布をかけて仕切れるようにしたり、玄関からLDKへの入口にハンガーラックをDIYするなど、「宇都宮ハウス」には暮らしの中から生まれたアイデアによるカスタマイズが各所に見られる。

「ストレートデザインラボラトリーへ設計を依頼したのは、学生時代からの友人だったということもあるけれど、私たちが望む暮らし方を受け止める家をつくってくれると感じたから。実際、この家は、何か手を加えようと思った時に加えやすい。おおらかさと余裕が感じられる家だなと思っています」

階段を上ると10帖ほどのフリースペースが広がる。これまでは子供の遊び場や家族共用のスタディコーナーとして使ってきたが、高校生になった長女が最近、スペースの一角にベッドとデスクを置き、自身の部屋にした。間仕切りに使っているのはカラフルなファブリック。庫本さんご夫妻はそろそろ長男の部屋もと考えているが、壁をつくって仕切るつもりはないという。

「あと数年もすれば、子供たちは独立して家を出て行く。寂しいけれど、もともとそういうものだとは思っていたので、子供部屋はしっかりつくるのではなくて、そういう風にも使える場所をつくってもらいました。将来は私の部屋になるかもしれないし、夫が使いたいと言うかもしれないですね。収納も、各所にたくさん造り付け収納をつくるより、どうとでも使えるスペースを広く確保することを優先しました」

収納は、玄関の下足入れとキッチン横のパントリー、寝室のクローゼットという、必ず収納が必要になる場所と、家族みんなが使える収納として、2階のフリースペースと寝室をつなぐ通路にオープン棚と引き戸付きの収納をつくった。フリースペースやリビングダイニングには収納を造作せず、庫本さんご夫妻が見つけてきた古道具やDIYした家具を駆使して、部屋を仕切ったりものを収めている。

「リビングとダイニングのあいだに置いているのは、古道具屋で見つけたキャビネットに、古い椅子の脚を自分でドッキングしたもの。置く場所を変えながら、ずっと使い続けています。鉄脚のダイニングテーブルはオーダーして作ってもらったもので、この家を建てる前から使っていました。最近、もともとの天板の上に古道具屋で見つけた古材の板を載せてみたんですが、反っていて家族に不評なので、また変えるかも」

変化する家族の暮らしに合わせてであったり、古道具屋での出会いがきっかけであったり。「宇都宮ハウス」のカスタマイズは家が建ち10年が経った今も続き、この先も続いていくのだろう。そんな変化を受け入れるために各居室はシンプルにつくられているが、一方で、建物の構造や性能など、簡単に手を加えることができない部分の計画は念入りに行われた。階段のそばに立つのは、「国立ハウス」にも使われているソーラーシステム「そよ風」のダクト。太陽熱と夜間の放射冷却といった自然のエネルギーを利用して室内の温熱環境を整えるもので、自然エネルギーの利用に関心が高かった庫本さんご夫妻の意向もあり採用された。

「夏の夜は床下から涼風が送られてくるし、冬も夜、家に帰ってくると暖かい。ほぼワンルームのような家ですが、断熱をしっかり入れてもらったので、暑さや寒さに不満を感じたことはありません。機能的なところと言えば、玄関とキッチンと水回りと階段が近接してまとまっているのがいい。子育てしながら働く日々は忙しいけれど、この生活動線の便利さに助けられています」

黒目地の白い100角タイル壁、ステンレス天板のキッチンは、家事アドバイザーの石黒智子さんの自宅キッチンを参考にしたと有基子さん。ダイニング側に作った収納カウンターの天板は手の跡がつきにくいメラミン化粧板が使われており、10年使われてきたとは思えないほど、古びることなく維持されている。

「出入りが多いキッチンのフローリングは、数年前にオイルを上塗りしましたが、ほかの部屋の床は建てた当時のまま。本当はやるべきなんでしょうけど(笑)。無垢の木とか大谷石とか、自然の素材は経年変化が味になるからいいですね。キッチンや浴室のタイルは、拭くだけで手入れができて劣化しないところが気に入っています」

築10年が建った現時点で、キッチンの床以外に大きくメンテナンスをしたのは2階のデッキ。東日本大震災が原因で根太がずれて水はけが悪くなってしまい、腐っていた部分の根太だけを取り替え、シルバーグレーに経年変化していたデッキ材はそのまま使っている。積み重ねてきた時間が家に映し出されていくことも、庫本さんご夫妻が望んでいた住まいの姿だ。

「小さい頃から部屋の模様替えをするのが大好きで、いろいろな物をつくるのも好きでした。家を建てる前は古い家を借りて、自分たちでペイントしていました。でも、作ることはたしかに好きだけど、作ること自体が目的なわけではないんです。“ここにこんなものがあったら便利そう”とか、“これをこんなふうに使えないかな”とか、“あそこに絵を飾ったら素敵に見えそう”とか、暮らしをもっと豊かにするための工夫を考えるのが、楽しいんです」

変わりゆく暮らしと共に求める豊かさも変わっていくからこそ望んだ、“ちょっと足りないぐらいの家”。この家はこの先も、庫本さん家族の人生に寄り添いながら変わっていくのだろう。

選んだのは「買う」のではなく「つくる」方法
“家族4人が住める最低限の要素”でつくった家

「西東京ハウス」が建つのは、短冊状に区切られた敷地に間口の揃った家々が並ぶ、よくある住宅地。敷地は約17.5坪、建築面積は約10.5坪の木造2階建てで、ロフトを含めた居住スペースの面積は約22坪の木造2階建て。今の時世に東京都下で建てる新築一戸建てとしては、標準的なボリュームの住宅といえるだろう。

1階にカーポートと玄関という構成、斜線制限などの法規から導かれた形状とボリュームは隣家と変わりないが、スチールで造作したバルコニーの手摺や、軒下いっぱいまで高さがある掃き出し窓、水平に伸びる庇や横貼りしたサイディングが、間口2間という狭さを感じさせない、おおらかな雰囲気をファサードに醸し出している。

この家に暮らすのは、市川圭さんと亜矢子さんご夫妻、長男と長女の4人家族だ。市川さんご夫妻が家を建てようと思ったきっかけは、10年以上暮らしてきた賃貸アパートが古くなり、ストレスを感じるようになっていたこと。そのまま賃貸に暮らし続けるよりも、ストレスを感じない家に暮らしたいと思い、住宅ローンを組む上での年齢的なタイミングも考え、マイホーム購入を決意。建売住宅やハウスメーカーのモデルハウスを見学し始めたところ、亜矢子さんのご友人からおすすめされたのが、ストレートデザインラボラトリーだったそうだ。

「ちょうど、ストレートデザインラボラトリーが設計した『HOMEBSE』の内覧会をやっていたので、行ってみたんです。家のテイストが好みだったこともですが、設計士の東端さんがとても話しやすい方だったことも、設計をお願いしようと思った大きな理由でした。“丸っぽい車よりも、四角い車が好きなんです”と伝えたことを覚えています。自分が好きなものをわかってくれそうだと感じたんです」(亜矢子さん)

「設計に望んだのは、広くて開放感がある明るいLDK、壁付けのキッチン、土間を取り入れたいということ。個室は小さくていい、なくてもいいぐらい、と伝えました。予算がたくさんあるわけではなかったし、“家族4人が住める最低限の要素があればいい”と思っていました」(亜矢子さん)

2階はワンフロアが丸々LDK。トップライトと東側のバルコニーに面した掃き出し窓、西側のキッチンの窓、南側の階段ホールに面した窓から光が注ぎ、北側の白壁に反射してフロア全体を明るく照らしている。「前の家でもカーテンは付けず、窓や戸はほとんど開けっ放しで暮らしていました」と亜矢子さん。南側には隣家の窓が面していたが、窓が小さくカーテンも付けていたため、「自然の光と風をたくさん取り込みたい」という希望を優先した。

キッチンは、「料理に集中したい」という亜矢子さんの希望から、対面型ではなく壁付け型に。正面に設けた窓は隣家と隣家の合間から空が見え、明るく気持ちがいい。キッチン本体は、ステンレスの天板にシンクとコンロを付けただけの仕様で、フルオープンにした下部は自由に使えるようになっている。キッチンの奥にはリビングダイニングから死角になるように壁を作り、家電などを置くカウンターとオープンな食器棚を造作した。

「収納をほとんど作らなかったのは建築費を抑える目的もありましたが、前の家が狭かったこともあってあまり物を持っていなくて、必要性を感じなかったんです。でも、キッチンの奥の収納は作ってもらってすごく良かった。LDKで散らかりがちな要素をぱっとここに隠したり、とにかく何でもここに詰め込んでしまえる(笑)。住む人の生活や気持ちを汲んだ設計に感動しました」(亜矢子さん)

1階は、玄関の下足スペースだけでなく、通路も洗面脱衣所も寝室も、すべてモルタル仕上げの土間床にした。土間床に置かれたベンチや壁には草花が飾られ、ちょっとしたギャラリーのような場所になっている。外と中の境界が曖昧な土間床は、蹴込のない階段と相まって、玄関ホールを広く感じさせる効果も生んでいる。

「うちの家族は家の中では常に裸足。土間床を踏んだ時の、冷たくて固い足触りが気持ちいいんです。玄関はお気に入りの場所ですね。階段に座って、玄関越しに外を眺めるのが好きです。玄関アプローチの植栽は、ミモザの木とアジサイとオオデマリの苗をホームセンターで買ってきて、自分で植えました」(亜矢子さん)

寝室、トイレ、洗面脱衣室、浴室といった生活機能は1階に集約。寝室はシングルベット2つと間口1間ちょっとのクローゼットが収まる最低限のサイズだ。窓にはカーテン代わりの目隠しとして、磨りガラス調のシートを貼っている。洗面は、キッチンと同じ白い100角タイルを馬貼りにして、実験用流しとクラシカルなデザインの水栓をコーディネート。国立の古道具店「LET EM IN」で売られていたというミラーが、その設えを引き立てている。

「個室はなくてもいいくらいと伝えましたが、とはいえ子供が2人いるので、2階のロフトを子供部屋として使える空間にしてもらいました。それぞれシングルベッドがギリギリで置ける3帖ほどのサイズですが、子供たちはリビングダイニングで過ごすことがほとんどで、小ささはあまり気にしていないみたいです」(亜矢子さん)

2つの子供部屋をつなぐ部分には、子供たちの勉強スペースとしてカウンターデスクを造作。現在は、音楽が趣味である圭さんのDJセットやCD、レコードが置かれている。圭さんは、将来子供たちが独立したら、このロフトを自分の趣味空間にすることを考えて楽しんでいるそうだ。

「リビングのピアノは最初から置く予定だったものではなくて、ここに住み始めてから、僕の思いつきで引き取ってきたんです。“ピアノがある生活っていいかも”と思って。この家を建てたら、いろんな暮らし方の想像ができるようになりました」(圭さん)

“家族4人が住むための最低限の要素があればいい”という、慎ましい要望から始まった市川さん一家の家づくり。たしかに寝室も子供部屋もコンパクトで、外装も内装も簡素な要素で構成されているが、それは構造や断熱など、長く快適に暮らすための性能の確保に重点を置いた結果。壁や天井の仕上げはラワン合板の塗装仕上げで、木の質感と表情を感じられる。幅木と廻縁のない床と天井の入隅の納まりや、壁の端部や窓枠に設えた無垢材、造作したラワン合板のドア、金物や照明器具の色味や素材感の統一、LDKの床は無垢のオークフローリングにするなど、細かな操作の積み重ねで、質量を感じる空間をつくり出した。

「設計事務所と家を建てるという方法は、家や暮らしへのこだわりが強い人が選ぶ方法で、お金ももっと掛かると思っていたんですよね。でも実際にやってみたら、建売住宅を買うのと変わらない金額で、内容は全然違う家を建てることができました」(圭さん)

TRUCK FURNITUREのソファとダイニングテーブルは、亜矢子さんが“いつか欲しい”と思っていたもの。受注生産品で家の完成より先にオーダーする必要があったため、設計の際は、ソファとダイニングテーブルのサイズに合わせて柱の位置などを検討した。800ミリ×1800ミリある大きなダイニングテーブルは子供たちの勉強スペースにもなり、休日は遊びに来た友人家族と大勢で食事を囲むこともある。亜矢子さんはこのソファに体を預けながらLDKを眺めるのが好きだと話し、圭さんはソファで寝てしまったときに、トップライトから落ちる光で目覚めるのが気持ちいいと話す。

「妻は、TRUCK FURNITUREのような家具が好きかと思えば、エキゾチックな雑貨も好きだし、実はキャラクターものも好きだったりするので、家づくりをする前は、“どんなテイストの家なら合うんだろう”と思っていたんです。この家は、そんな妻の多趣味も、僕の思いつきも受け入れてくれる。“買う家”ではなくて、ストレートデザインラボラトリーと家をつくることを選んで、本当に良かったと感じています」(圭さん)