H. works

H. works

text by Kanako Satoh
photo by Takeru Koroda

H. works

何気ない日々の暮らしに楽しみを添える
器のような店と住まい

立川市の郊外にある『H.works』は、作家や職人の手による器やテーブルまわりの雑貨を取り扱うお店。以前は立川駅前にあるビルの一室にお店を構えていたが、周囲に畑が広がるのどかな土地に小さな店舗兼住居を建て、移転。店主の園部由貴さんが暮らしながら、店を営んでいる。

「取り扱っている器は、作り手の人柄やものづくりへの姿勢に共感できる作家さんのもの。お店を始めた当初は、見た目の美しさに惹かれたものも扱っていたんですが、やっぱり器って、使うものじゃないですか。日常の暮らしの中で活きる器が、私は好きだなと思って。器を実際に手に取った時の重さやサイズ感は日々の使いやすさにつながる要素なので、そうしたことを気にかけながら器を選んでいます。あと、私が心がけているのは、作り手がどんな人なのか、どんな考えでその器を作ったのかを伝えること。背景にあるそうしたお話を知っていると、その器への愛着が湧きやすくなると思うんです」

『H.works』のインスタグラムやブログには、園部さんが作った料理やお菓子が盛り付けられた器たちの写真が並んでいる。ご飯茶碗に、大皿に、小鉢に、平皿。何気ない普段の食事が、盛り付ける器や、並べる器の選び方次第で華やかになる。ただ眺めて愛でるだけではない、実用されて初めて生きる器たちの良さが、伝わってくる。

「私の仕事は、その器の良さを伝えること。特に、見た目が大人しい器は、使ってみないと良さをわかってもらいにくかったりもします。だからまず自分で使ってみるんです。料理を盛ったり、花を生けたり。そうすると、その器の良さが、自分でもわかってくるんです」

畑の中にあるお店へは、大通りから砂利道を通って辿り着く。駐車場を兼ねた庭にはイワダレソウが植えられ、そこから木枠のドアを開けて店へと入るアプローチは、昔ながらの農家の縁側からお邪魔するような感覚に似ている。

家を建てることを考え始めた当初、園部さんは住むだけの家にするつもりだったという。現在の場所は、店をやるには決していいロケーションとは言えなかったが、園部さんはこの土地を見て、「この場所に建てるなら、店もここでやりたい」と思ったという。

「畑の中を歩いて家に行く感覚が、気持ちよかったんですよね。お客様にも、それを体験してもらいたいなと思ったんです。駅前から移転することや、お客様にとってもこの場所が魅力的に見えるのかは不安でしたが、自分が持っている場だったら店としてトライできることの幅も広がるかなと思って、店も移転することを決めました」

1階の店舗には厨房をつくり、カフェ営業もできるようにした。器の展示会と併せて料理家の方やカフェをやっている方を招き、器に実際に料理を盛り付け、お客様に提供するイベントも行っている。駅前のビルからこの場所に移転して、来店するお客様にも変化があった。車で来てのんびり器を見ていくお客様。子供連れで訪れるお客様。庭や畑を駆け回る子供たちの姿。夏には、ご親族の方が畑で作った野菜を軒先に並べて売ることもあるという。ただ店に器を並べるだけではなく、この場所での暮らしも、園部さんがお客様に見せたいと思ったものなのだ。

「1階はショップと厨房がお店の部分。1階のリビングは住居部分に当たるのですが、イベントの時はバックヤードとして使ったり、職人さんや作家さんとそこで食事をしたりすることもあります。店と家を一緒にするなら、私の暮らしすべてを隠すことはできないし、そもそも暮らしとセットで器を提案したいと思っていた私には、こういう形が合っていたようです」

白いモザイクタイルとラワン合板、ステンレスの天板でつくられたキッチンは、カフェの厨房というより“台所”。器や調理器具の置き場所、ワゴン収納の収め方など、園部さんがその使い勝手を丹念に考えて計画されている。奥のパントリーには造作した食器棚があり、園部さんが普段使っている食器が収まっている。

「私は、同じ器を揃えないので、三寸皿は三寸皿、五寸皿は五寸皿と、サイズごとに重ねてしまっています。家庭で普段使いする器では、一番大きい八寸皿が24cmなので、それに合わせて奥行きが深くなりすぎないサイズの棚を作ってもらいました。すべての器が見えるようにしておくと使い漏れが起きにくくなると思うんです。ぱっと見て使う器が選べるようにしたかったので、扉は付けていません」

ストレートデザインラボラトリーを知ったきっかけは住宅雑誌だった。園部さんは、建築が主張し過ぎない大らかな空間と、合板や100角白タイルなどのシンプルな素材遣い、それでいて窓や建具、金具などの細部まで意思が行き届いたデザインに惹かれたと話す。

「私が好む器と同じで、一見地味だけど、日常使いで映える建築だなと感じたんです。あと、設計した家の中にはグラフィックデザイナーの方や彫金をやられている方などの家もあり、ものづくりをしている方々の感性や考えを受け止める空間をつくってくれそうだと思ったことも、設計を依頼しようと思った理由のひとつでした」

パイン材の床に、木枠の窓、ラワン合板で造作した棚。古いテーブルや椅子などの家具が並べられた住まい然とした空間に、さまざまな作家や職人の器がしっくりと馴染んでいる。園部さんが設計事務所を探し始めたのは、店舗併用住宅にすることを決めたあとだったが、“店らしい”デザインはあまり求めていなかったという。

「畑の中に建てることもあって、外観も主張が強くないデザインがいいなと思っていました。木枠の窓が、家らしい印象をつくっていますよね。お店の出入り口がある側の外壁だけ下見板貼りにしているんですが、ここはストレートデザインラボラトリーの提案で、フレキシブルボードを使いました。無機質なテクスチャーが気に入っています。10年後、どんなふうになっているかなぁと楽しみにしています」

三角屋根がかかる2階には住居のダイニングキッチンと浴室、寝室、クローゼットがある。面積は小さいが、屋根の形状に沿った三角の天井が開放感を与えてくれる心地よい空間だ。将来的に園部さんが1階に住んで2階を貸し出すという使い方もできるよう、1階の納戸を水回りに変更したり、各階の玄関を分けられるように計画している。

「朝、目が覚めたとき、寝室の高い天井を見るのが気持ちいいんです。天井が低いところと高いところとメリハリがあって、それが心地いい。寝室の窓から吹き抜けを見下ろすのも好きですし、吹き抜け下の喫茶スペースでお茶を飲む時間も好きです。いつか歳をとってお店をやめたあとは、ここにこんな物を置こうとか、ここはこんなふうに使おうとか、思いを巡らせては楽しんでいます」

さまざまな料理を受け入れる器量を持ち、「こんな料理にも合わせられそう」という想像も促す、日常に寄り添う普段使いの器。「家は暮らしの器」とはよくいうが、園部さんにとってこの家は、まさにそんな存在なのだろう。自分にぴったりの器を手に入れた園部さんがどんな暮らしを装っていくのか、楽しみだ。