葛西ハウス

kasai house

text by Kanako Satoh

photo by Natsuki Hamamura

葛西ハウス

窓の外も、家の中も。
「眺めのいい家」に住む

『葛西ハウス』に暮らすのは、Mさんご夫妻と長男、そして生まれたばかりの長女の4人家族。奥様のご実家が建つ土地の一部を譲り受け、Mさんご家族の家を新築した。いわゆる敷地内別居で、両家の境界に塀などは設けず、道路からのアプローチと前庭を共有している。

小さな川が流れる緑道沿いに建つ家は、いぶし銀色をしたガルバリウム鋼板の外壁に木々の緑が映える。外観を見ると、決して窓が大きかったり、窓を多く設けているというわけではない。敷地は旗竿形で隣にご実家が建っていることもあり、道路側からの外観はむしろ閉鎖的だ。しかし家の中に一歩足を踏み入れると、そこには思いがけず開放的な眺めが広がっていた。

straight design lab | kasai house

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「長男が生まれたことを機に家を持つことを考え始めました。そんな中、妻のご両親から敷地の一部を使っていいよという提案をいただいて。夫婦共働きで、お互い勤務先は都内。栃木にある僕の実家の両親が『子育てしやすい環境のほうがいいよ』と言ってくれたこともあり、家を建てることにしたんです」(ご主人)

一方、学生時代は住居学を専攻し、卒業後は百貨店でインテリア部門を担当し続けているという奥様は、独身時代から「家づくりがしたい」と漠然と考えていたという。

「建築家との家づくりに憧れていました。でも、『この人』と決めて依頼ができるほどはっきりとしたイメージが自分たちの中になかったので、家づくりサポートサービスを利用したんです。コンサルタントの方から提案された設計事務所のうちの1社が、ストレートデザインラボラトリーでした。私たちの「理想の家のイメージ」をお伝えした上で、一緒に敷地を見に行きました。その後、ストレートデザインラボラトリーから送られてきたスケッチに、心を鷲掴みにされてしまったんです」(奥様)

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スケッチに描かれていたのは、玄関を入った時に広がる、緑道と空へと目線が抜ける吹き抜けのホールのイメージ。そして、水平に展開する腰高窓から緑道の緑を眺める、リビングダイニングのイメージだ。ホールの右手には木枠のガラスパーティションが描かれており、パーティション越しにリビングダイニングを望む空間構成も外の景色の取り込み方も、ほとんどそのまま実現されている。

「ストレートデザインラボラトリーからの提案内容を受けて思ったことは、『背伸びしておらず住みやすそう』ということでした。自宅の設計を建築家に依頼することに対して、当初は分不相応なのではないかという気持ちを抱いていたので、自分たちの身の丈に合った内容の家が提案されたことにほっとした気持ちと、うれしさがありました」(奥様)

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Mさんご夫妻が理想の家のイメージとして挙げたのは、フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの自邸。フィンランドを旅した際にアアルトの自邸を訪れたという奥様は、その家の“窓辺”のデザインに惹かれたという。日照時間の短い冬の季節が長く、建物の中で過ごす時間が多い風土のためか、自然光の採り入れ方と外の景色の取り込み方に特徴を持つ、アアルトの建築デザイン。その設計スタンスは「葛西ハウス」にも共通する。

緑道を行き来する人の目線を気にせずに眺めを堪能できるように、リビングダイニングの窓は腰高窓に。たっぷり30cm設けた窓台は通りとの適度な距離を生んでいるだけでなく、ただの「眺める窓」でなく、「過ごせる窓辺」をつくり出している。

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「アアルトの自邸のほかにも、私たちの好きな要素をそこかしこに取り入れてもらいました。2階の格子窓は、代官山にあるファブリックブランド・coccaの外観がヒント。木枠のガラスパーティションはbillsを参考に、アンティーク風の塗装を施しています。壁の塗装には、マーガレット・ハウエルがショップカラーにしている、オイスターホワイトという色を採用してもらいました。それから、以前から持っていたアアルトのコートラックを食器棚として使えるように、キッチンの棚やタイルのバランスを考えてもらったりと、たくさんのリクエストを盛り込んでもらいました」(奥様)

キッチンの壁はクラシカルなテーパータイルで仕上げ、背面収納側とコンロ側で色違いに。洗面室の床には柄入りのタイルを使い、壁には白いボーダータイルをポイント使いしている。シンプルに整えたベースにヨーロピアンなテイストを彩りとして加えたインテリアデザインの中、ポイントになっているのが、ホールの壁に設えた大谷石だ。昔の住宅の外塀に多く用いられてきた大谷石のイメージと、モルタル仕上げの土間床、そして玄関を入って緑道まで視線が抜ける空間構成が相まって、外廊のような感覚を起こさせる。

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「地元の特産である大谷石をどこかに取り入れてほしいとお願いしたんです。使う場所をさまざまシミュレーションしてもらって、最終的にホールの壁に採用することになりました。広い面積に使うし、妻好みのインテリアと折り合いがつくのか心配していましたが、思いのほかしっくりきていて驚きました。和室も僕からのリクエストで、壁は濃紺に塗装しました。市川崑監督の映画の、コントラストが強く暗部の多い映像世界が好きで、そのイメージから。非日常感を感じられる場にしたくて、茶室の潜り口のようにしてもらいました」(ご主人)

和室の壁はカラーワークスの塗料を使い、Mさんご家族がDIYで塗装をした。2階寝室のブルーの壁もDIYによるもので、こちらはFARROW&BALLの塗料。テイストはもちろん、色、素材、形、すべてを「暮らしやすさ」に照らし合わせながら入念に吟味して、夫婦それぞれの好みをバランス良く取り入れた空間からは、Mさんご夫妻の満足感と住まいへの愛着が感じ取れる。

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「家は、服のように簡単に着替えることはできません。念願の家づくりだったので、“こんな風にしたい”“こんな素材も使ってみたい”と、自分でも収集がつかなくなってしまった場面があったのですが、ストレートデザインラボラトリーに、“お店と違って、家は長く過ごす場所であることを前提に内装を選んだほうが良い”という、住宅デザインならではの視点を与えてもらい、経年変化した時に味になる素材なのか、飽きのこない形なのかといったことを考えながら、家づくりに臨むことができました。末長く付き合っていきたい住まいです」(奥様)

窓から望む「外」の景色だけでなく、「家の中」の景色も心地良い、眺めの良い家。緑道の木々がもたらす季節の移ろいを感じながら年月を重ねていくのだろうこの家は、Mさんご家族の愛着とともに、その味わいを深めていきそうだ。

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