玉川学園ハウス

tamagawagakuen house

text by Kanako Satoh
photo by Takeru Koroda

玉川学園ハウス

“外のような住まい”で楽しむアウトドア的ライフ。 
創造的な暮らしを育てる大らかなフィールド

『いそがしいよる』(さとうわきこ/作・絵、福音館書店/発行)という絵本をご存知だろうか。草原に建つ一軒家に暮らすおばあさんが、夜空の星があんまりにきれいなので、外で寝ることを思いつく。そしてベッドを外に引っ張り出し、次にお茶セットを、テーブルを、タンスを…と、果てには家財のすべてを外に引っ張り出してしまうというお話で、幼少時のお気に入りの絵本だった。床は草、壁は風、天井は満点の星空。キャンプとはちょっと違う、“外に住む”感覚。「なんて素敵な暮らしだろう」と憧れたことを覚えている。『玉川学園ハウス』を訪れて感じたのは、この絵本を開いた時に抱いたあのときめき。広い庭の中にキッチンやリビング、バスルーム、ベッド、お風呂があるような、家の中にいるのに空や光、風や緑を感じる、まるで外に暮らしているかのような住まいなのである。

straight design lab | tamagawagakuen house

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「春はバルコニーのハンモックで寛いで、夏は涼しい土間で、秋はリビングで日射しを感じて、冬は薪ストーブを囲む。季節に応じて変わる心地良い場所に合わせて、家族の居場所を変えるような暮らし方。そんな、外を身近に感じる暮らしがしたいと思っていました」。そう話すのは、この家の主であるHさんご家族。プロダクトデザイナーであるご主人と、彫金が趣味の奥さま、6歳の息子さんの3人暮らしだ。以前から玉川学園駅周辺に住み、古き良き昭和の時代を感じさせる家並みや、風が抜ける坂道、細く曲がりくねった道など、けして便利とは言いがたいが、のんびりと穏やかな余裕が感じられるこの街が気に入り、数年前から土地を探していたという。手に入れたのは、高台にある約62坪の敷地。そこへ、ストレートデザインラボラトリーの設計で、建坪18坪ほどの2階建ての住まいを建てた。

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趣味の自転車が飾られたポーチから玄関を入ると、薪ストーブが置かれた吹き抜けの土間。2階への階段の下には、縁側のようなベンチが設えられている。土間の横には奥さまのアトリエがあり、ご主人用の小さな書斎もある。土間の奥は、子供室と主寝室、テラスに面した浴室に続く。2階はワンフロアが丸々LDK。バルコニーまでひと続きになった開放的な空間だ。ハンモックが吊るされたバルコニーからは、遠く都心のビル群まで見渡せる絶景が広がり、爽やかな風が吹き込んでくる。

「リビングから続く広いバルコニーも、土間も、当初から希望していたもの。“露天風呂”という夢も、テラスに直結する浴室という形で叶えて頂きました。外を見て過ごすのが好きなので、“カーテンが要らない生活”も希望のひとつでした」(ご主人)。バルコニーの先の家々は『玉川学園ハウス』よりも数メートル低い位置に建ち、LDKから見えるのは屋根のみ。他のLDKの窓も隣家の窓位置からずらして配置することで、「要らない景色はカットして、周囲の視線を気にせずに暮らしたい」というHさんご家族の要望を叶えた。

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2階LDKに造り付けた収納は一カ所だけ。キッチンの下部もオープンで、作り込みが少ないこともこの家の大きな特徴だ。「以前、住んでいた賃貸の家は収納がたくさんあったのですが、結局しまいっぱなしになってしまっていたんです。部屋の使い方や置くものも状況に応じて変えながら暮らしていきたいと思っていたので、造り付けの収納は最低限にしてもらいました。家具も、動かしやすいものを使っています」と奥さま。 そうした考えの背景には、「必要性と成り立ちがわかるデザインが好き」という、Hさんご夫妻の嗜好がある。

室内の素材選びにもそれは反映されている。あたたかみのあるパインを敷いた1階の廊下、階段の踏み板はやわらかい杉、家具を置くLDKの床は固めのオーク。天井はラワン合板で仕上げた。飾らない素のままの素材が、大らかな空間にさらに寛容な雰囲気を伴わせている。「家の成り立ちを理解しておきたかった」というHさんご夫妻は、DIYにも挑戦。1階のラワン合板の壁にはオイルステインを、洗面室の壁にはポーターズペイントを自分たちで塗装したという。

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ストレートデザインラボラトリーに家づくりを相談しようと思ったきっかけを聞くと、「雑誌で見た『国立ハウス』の、シンプルなのに大胆な空間構成や、外との関係性のつくり方、そして素材感のあるものを使ったデザインに惹かれました。ローコストで建てたいとは思いつつ、質素でも質のいいものにこだわりたかったんです」と奥さま。夫婦ともにものづくりに携わり、クリエイティブな感性は人一倍。ご主人も、「僕自身でデザインして、工務店に建ててもらうこともできたかもしれません。ですが、餅は餅屋。住宅のデザインを専門とする人にお願いしたかった。おかげで施主に徹することができ、ディスカッションしながら家づくりを進めることができたのがとても良かったです」と、ストレートデザインラボラトリーとのコラボレーション的な家づくりを大いに楽しむことができたと話す。

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「街並に溶け込みつつ、ユニークさもあるものに」と、ご主人がこだわった外観。黒いガルバリウム鋼板の外壁が、通り側に生えるカイヅカイブキの生け垣や、庭に育つ杏と桃の木の緑を引き立てている。これらの樹々は、以前からこの敷地にあったもの。古家付きの土地としてこの土地を購入する際には、前オーナーが自ら案内をしてくれたという。もともとこの街の家並みや雰囲気が好きだったHさんご夫妻は、「この場所で育まれてきた歴史を引き継ぐような家にしたいという気持ちもありました。前オーナーさんがご近所さんを紹介してくれたこともあって、家を建てる前からご近所との付き合いが生まれました。今後は庭づくりに本格的に取り組むつもりなのですが、近隣の人が見ても楽しんでもらえるような庭づくりがしたいと思っています」(ご主人)。

ほかにも、奥さまの彫金制作のオープンアトリエや土間をギャラリーとして開放するなど、“開かれた家づくり”を構想中だというHさんご家族。
“外のような住まい”に暮らすHさんご家族の暮らしは、家の中から外へと広がり始めている。

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