小平ハウス

kodaira house

text by Kanako Satoh
photo by Takeru Koroda

小平ハウス

豊かさは暮らしの中で築き上げていくもの。
手作りで満たしていく、縁側のある平屋

縁側、土間、低い屋根、深い庇、軒下…。“懐かしさ”を感じる、住まいの風景。ほんのひと昔前までは、日本のそこかしこにあったのだろう。高層マンションやキューブ型の住宅が当たり前になった今でも、こうした風景に心が惹かれるのは、その空間がもたらしていた豊かさを、私たちのDNAが記憶しているからなのかもしれない。 

2階建てや3階建ての戸建てが建ち並ぶ郊外の住宅地で、そこだけぽっかりと空が開いていた。奔放に生い茂る草木の陰から覗く、低い切妻屋根の平屋。この家に暮らすのは、ご夫婦と小さなお子さんふたりのMさんご家族だ。

straight design lab | kodaira house

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「私たちの暮らしには、2階は要らないなと思って」。そう話すご主人は平屋があるご実家に育ち、奥様とのご結婚後は、その離れの平屋に暮らしていた。古く小さな家だったが、住んでいくうちに平屋での暮らしが気に入り、お子さんの誕生をきっかけに建てることになった新居も、平屋にしたいと望んだのだという。

「ストレートデザインラボラトリーの東端さんには、“平屋”であることと、“縁側”もリクエストしました。実家には縁側もあって、よく近所の人がそこに腰掛けて、家族とお茶をしていました。そんな風景が日常にある家にしたかったんです。それから“土間”も、お願いしたもののひとつ。小平周辺にはまだ古い農家がいくつかあって、玄関を入ると、土仕事ができる土間があるんです。そうした私の住まいの原風景が、家づくりのベースになりました」(ご主人)

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そうした“懐かしい風景”を散りばめてつくられた『小平ハウス』は、延床面積90平米弱に玄関、納戸、LDK、浴室、洗面室、家事室、子ども室、ロフト付きの主寝室という構成だ。玄関を入ると、ご主人のリクエストだった土間が広がる。玄関ドアは両開きで、開放すれば外の土間とひと続きになり、半屋外的な場所として使うことも可能だ。土間の一角には手洗いがあり、空間の用途を広げている。面白いのは、並列した各居室を貫く“縁側”。普通なら、居室と縁側の間には障子などの建具があるものだが、この家では“縁側”を仕切らず各居室の一部とすることで、居室同士をつなぐだけでなく、空間を窓外のデッキまで広げている。玄関からリビングに入った時の、まっすぐ奥まで見通す“縁側”の眺めは、ご主人のお気に入りだ。

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庭に面した深い庇付きのデッキもまた、縁側的な空間。様々な草木が植えられた庭は季節ごとに色づき、縁側からの豊かな眺めをつくり出すのだろう。「ここはもともと実家の土地で、以前は母の花畑でした。ターシャ・テューダーのような、野の花に囲まれた生活に憧れますね。このデッキや縁側から庭を眺めるのが、とても気持ちいいんです。夏は親子で肩を並べてスイカを食べたり、秋はお月見団子を食べたりしたいですね」(ご主人)。

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「もしも将来、家が手狭になったら、庭に小屋を建てても面白いかも」と話すご主人のご趣味は日曜大工。ダイニングや子ども室にある棚や寝室のデスクは、ご主人が手作りしたものだ。一方、奥様のご趣味はパン作りやお菓子作り。もの作り好きなMさんご夫妻が本質的に求めていたのは、暮らしに合わせてカスタマイズしていくことができる住まいだった。

「平屋をリクエストしたのも、シンプルに暮らすことができると思ったから。大き過ぎる家は、年を取って夫婦ふたり暮らしになったら持て余してしまう。平屋は水平移動だけで生活できるし、仕切りのない空間にすれば、いろんな使い方ができます。子ども室も、将来2部屋に分けて使う予定。最初に造り込んでしまうと、後からそれを作り直すのは大変ですよね。でも、シンプルな状態から付け足していくのは簡単。住みながら、その時その時に必要なものや場をつくりながら暮らしていく。私たちは、そんな暮らしがしたかったんです」(ご主人)

straight design lab | kodaira house

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そんなMさんご夫妻の思いを象徴するのが、キッチンを計画する際のエピソードだ。当初は、流行りの対面型にするつもりだったというキッチン。「でも、そうするとレンジフードが空間の中央にぶら下がって、空間を“キッチン”に限定してしまう。LDKはいろんなことに使える場所にしたかったので、空間を隅から隅まで使える、壁付けキッチンを選択しました」と奥様。リビングで遊ぶ子どもたちの様子は振り向けばすぐにわかるし、声も届く。ちなみに、カウンター代わりに使っているのはアンティークの水屋で、空間の使い方を変えたい時は動かすことが可能だ。「子育てがひと段落したら、ここでパン作りの教室などを開けたらいいなと思ってます」という奥様のビジョンに配慮して、キッチンはいずれオーブンを設置できるようにも造作されている。

変化していく暮らしを受け止めるための工夫はほかにも。室内の壁仕上げは合板を白く塗装したもので、釘を打ったり、別の色で塗装したりがしやすい。作り付けの収納を最低限にしたのも、後から壁面に棚を造作したりできるようにという配慮からだ。ちなみに、収納はキッチンパントリーや納戸、主寝室のウォークインクローゼットなど、専用のスペースに集約されているが、窓の上に小物を置ける程度の幅がある板を巡らすなど、飾ることを楽しむための仕掛けも盛り込んでいる。

「私たち、持ちものがとても多いんです。それでいて、ものはしまうよりも出しておきたい性格。生活が見える空間のほうが心地がいいんです。ストレートデザインラボラトリーが設計した住宅はどれもシンプルで、自分たちの生活が馴染む家をつくってくれそうだなと感じたんです」(奥様)

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そこにあったのは、背伸びをしない等身大の暮らし。この家に感じる懐かしさは、縁側や土間などの物質的要素によるものではなく、暮らしのものごとを手作りするMさんご家族のライフスタイルに、古き良き時代の暮らしが重なるからかもしれない。

「もともと平屋に住んでいたせいか、違和感なく普通に住めている」とご主人が話す通り、Mさんご家族の暮らしは、すっかりこの家に馴染んでいるように見える。しかし、「理想の住まいを100点とすると、今はまだ5点くらいですね」とご主人。「もちろん今の状態も気に入っていますよ(笑)。でも、住みながらもっともっと良くしたいんです。家が完成した時点では0点で、暮らしながら理想形までつくっていくイメージ。歳をとってから“ああ、やっぱりいい家だな”と思える家にしていきたいですね」(ご主人)

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